犬とチョコ1(武人と妖魔)
ガチャッガチャッ
フワフワ
ガチャッガチャッ
フワフワ
歩くたびに鎧が揺れ音を立てる。
その後ろを宙に浮いた物がついて行く。
音を出してる主、ガブラスは後ろについて来る存在に気付いていながら気付かないフリをしていた。しかし急にクイックイッっと強い力でマントを引っ張られ立ち止まる。
「…何をする。」
仕方なく振り返るとマントを二匹の触手がくわえて引っ張っていた。
触手の主である暗闇の雲は睨みつけられても、なぜ睨むのか理解出来ないようでキョトンとした顔をしている。
「やっとこちらを向きおった。」
「なんだ?普通に声をかければいいだろう。」
「かけた所で無視するじゃろ。」
図星をつかれ黙り込むガブラスなどお構いなしに雲は喋り続ける。
「ばれんたいんを知っておるか?」
「女が男にチョコを渡す行事だろ。」
雲の口からバレンタインなんて言葉が出るとは思わなかったガブラスは驚きつつも簡潔に答える。
「ふむ…ばれんたいんとは有名なのじゃな…ならばこれをやろう。アルテミシアが作ってるのを手伝ったら貰ってのぅ。」
差し出されたのは可愛くラッピングされた箱。よく見れば同じ色のリボンを二匹の触手が付けている。
「貴様は女ではないだろ…。」
「見てくれは女じゃ。」
「そういう問題では…。」「細かい事は気にするでない。」
「おい…。」
箱を押し付けると上機嫌でフワフワと飛んで行ってしまった。
性別不詳の存在にチョコを渡され途方に暮れつつ、ホワイトデーは何を返せばいいのかと悩む日々が始まったのだった。
- 9 -
戻る