また別の片思い(幻想→武人)
酔いも随分と回ってきた頃、目の前で黙々と飲んでいたガブラスの手が止まったのが見えた。
3本程度でヘばる相手でもない、何かあったのだろうか。
「どうした?」
「なんでもない…。」
「嘘つけ。言いたい事があるなら言えよ。めんどくせぇ。」
煮え切らない態度に背中を押してやるとぽつりぽつりと言いはじめる。
「…何故、貴様達は俺に構うのだ?面白い人間でもないのに…。放っておけばいいだろう…。」
言い終わると奴はふぅと溜息をつきグラスの中の酒を飲み干した。その空になったグラスに酒を注いでやる。
「んー他の奴らは知らねぇが俺様はお前が好きだからな。」
「好き…か…。」
眉間に皺を作りこちらをじっと見つめてくる。
そんな見つめられちまうと襲っちまうぜ?なんて軽口を言おうとしたがその前に向こうが口を開いた。
「俺は人に好かれていい人間じゃない。」
「それはねぇよ。」
こいつはいつもそうだ、自分を蔑んで生きてる。
「憎めばいい。」
「…。」
「愚かな犬に愛なんていらん。」
どれだけ自虐すれば気が済むのだろう。
「お前は不器用な奴だよ、ノア。」
嫌がるのをわかっていて本当の名を呼んでやると泣きそう表情になる。
「その名前で呼ばないでくれ…。」
「いやだと言ったら?」
少しの沈黙の後絞り出すような声が聞こえた。
「帰ってくれ…帰れ。」
「わかったよ。また来るわ。」
こうなってしまったらまるで話を聞かない。素直に帰る方があいつの為にもなる。
出口に向かって歩き出すと背を向けたまま謝罪の言葉が投げ掛けられたきた。
「…すまない。」
「気にすんな。」
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