侵食されゆく心(混沌×武人)
長らく主のいなかった玉座に主が座っていた。
呼び出すばかりで滅多に来ることもないのにどういう風の吹き回しだとガブラスは目を細める。

「狗よ、うぬの元に秩序の者が訪ねて来ているそうだな。」
それまで続いた沈黙を破ったのは頬杖えをしガブラスの様子を見ていたカオスだった。
その一言は面白くないという感情を隠すことなく滲ませている。
「奴等が勝手に来ているだけだ。」
「馴れ合うな。」
「そのつもりはない。だが俺が何をしようと貴様には関係ない。」
見上げればカオスの不満げな表情が視界に入る。

馬鹿馬鹿しいと漏らせば気分を害したのであろう巨大な腕を伸ばし無抵抗のガブラスを掴み持ち上げる。
そんな神を眉間に深い皺を刻み憎しみに染まった瞳で睨み付けた。
「このまま握り潰してやろうか?我が駒として働かぬ狗なんぞいらぬ。」
喉をならし笑い、ほんの少し指に力を込めるだけで指の中にいるガブラスの身体はミシミシと折れそうな音を立てる。
「・・・勝手にしろ。」
締め付けられる身体の傷みなどおくびにも出さず目を伏せた。

「くくっ・・・やはりうぬはいい。その憎しみ、そして絶望。心地のよいものだ。」
ガブラスから伝わってくる負の感情がカオスを満足させたのか。
それとも脅し程度の行動だったのか。
ガブラスには真意がわからなかったが締め付ける指が緩められ別の手に乗せられる。
手の上に解放されたガブラスは身体中の痛みから立ち上がることも出来ず立て膝をつく。
荒い息を整えようとするガブラスのどこからか出た血が手を汚した。

「うぬはここで我が狗として飼われていればよい。他の者には渡さぬ。」
混沌の神らしからぬ酷く甘い声。
愛しい物に触るかの如くガブラスに触れる指が動く。
その心地よさに身を任せゆっくりと瞳を閉じた。
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