触れる手(武人と騎士)
どこまでも続く地獄に目を向けていると本来ならば誰もくるはずのないこの地に微かな光の気配を感じた。
その気配は俺の元に一直線に向かってやって来る。
「こんにちは。」
目の前に立った美しい男がこの世界では眩しいぐらいの笑顔を向けてきた。
また来たのか…とは思うが口には出さない。
このしつこい男には何を言っても無駄なのは今までの経験上、理解しているから。
「なんの用だ。」
感情のかけらすら込めず返すと男は少し困ったように笑い「あなたに会いたかった。それじゃダメですか?」っと首を少し傾けながら聞いてくる。
きっとこの可愛らしい動作に多くの人が魅了されているに違いない。
自分も彼のようであったのならばまた違う人生が歩めたのだろうか?
いや、俺はどちらにしろ憎しみに捕われ闇に堕ちていただろう…。
「…貴様が羨ましいと思う時がある…。」
ぽつりと漏らした呟きが微かに聞こえていたらしく「ガブラス、今なんて?」っと聞き返してきたが、黙っていると手を伸ばしてきた。
その手を叩き落とす気も起きず、好きにさせていると頬を撫でてきた。
華奢な見た目とは違う戦士の手。
しかし男の手とは思えない繊細な動きで頬に触れてくる。
「…ただの戯言だ。」
愛しい物に触れるように動く優しい暖かい手に自分の汚れた手を重ねてやると男は嬉しそうに微笑みかけてきた。
- 2 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ