連鎖怪談 其の一
棚の中に巣くう者

これはある古い日本旅館のリニューアルを手掛けた時の話しです。

工事の前に間取りを把握するため、まずは全部の部屋を見てまわった時、押し入れの横に腰ほどの高さのあるが、3台設置してある部屋がありました。
押し入れに一番遠いから順番に開けてみると、コンビニボックス。
真ん中は冷蔵庫が入っていて、この2つのの上には緑茶器セットが置いてありました。
何にも変わった所はありません。
ところが、押し入れに一番近いの扉を開けると、何にも入っていないし、その上にも何も置いていません。
「何でこのは何にも使われてないんだろう?布団を敷く時に押し入れから近くて一番使い勝手も良いのに…」
一瞬、不審には思いましたが、どの部屋よりも割とその部屋は綺麗に保たれていたので、畳みを張替えるくらいで、余り手を付けずに再オープンしました。

数カ月後、しばらくして、その部屋に泊まる宿泊客から「物が無くなる」という苦情がフロントに入るようになりました。
それで、よく探してみると必ずそのの中にあるのです。
つまりそのには住んでいるのです。
霊が…
が押し入れと横並びになっているので、寝てしまうとが見えなくなってしまい、それで宿泊客もなかなか気付かないのです。
また、別の宿泊客がたまたま上下反対に、足の方を頭にして寝てしまった時、見てしまいました。
の扉の隙間から、青白い華奢な手がスーっと出てきて、上に置いてあった携帯を掴んで中に引きずり込んでいくのを。
そしたら次に、今度は手だけではなく、ヌっと上半身まで出てきて、携帯の隣にあった宿泊客のカバンの中を、首を小刻みに揺らしながら、ゆっくり左右に首を振り、ジッとカバンの中を覗き込んでいました。
その姿はまるで、時代劇に出てくるような鮮やかな赤い着物を身にまとい、髪は真っ黒い日本結いの、顔は白粉で白く浮かび上がって、まるで”おいらん”のようでした。

もはや目撃情報まで出て、そうなってしまうと、もうそこは開かないようにした方がいいんじゃないか、という話しになり、そのの扉を開かないように細工をしたら、その後、別の宿泊客から今度は「うるさくてしょうがないんだけど…」という苦情が入るようになってしまいました。
中から”…トントン…”トントン…!…ドンドンドンドン…”…ガタガタガタガタッ…”

だから、しょうがなくまた扉を開くようにして、[開けたら完全に閉めてください]という注意書きを貼って、さらに天板の裏にお札を張って、この問題は放置、様子見という事になりました。
それでも、まだ目撃情報は後を起ちません…

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あきゅろす。
リゼ