時間が唯緩やかに(家三)




それは私が執務していた時だ。眩い光が部屋に差し込むのに気付き、ゆっくりと振り向けば逆光を浴びた男が立っていた。太陽の光が眩しいのか、奴が眩しいのか。はあ、と溜め息を吐けば手を不自然に後ろにまわしている奴の表情が変わる。きょとんとした顔だ。何故溜め息を吐かれるのか分からないのだろう。正直奴は苦手だ。何かあれば直ぐに犬のように私にまとわりついたり、綺麗だの美しいだのと訳の分からない言葉を吐き出したり。奴には私がどう見えているのだろうと考えたことがある。しかし、私は奴ではないから結果は分からないままだったが。三成、と呼ばれ我に返れば奴との距離がより近くなっていた。どうでもいいことだから無視するがあまり近いと緊張する。何故かはわからないが。…何故だ、何故そんな近いんだ。もう一度名を呼ばれれば、なんだと返す。その言葉を聞けばにこりと笑う相手に私は再び溜め息を吐いた。

「ははっ!これ、似合うぞ」

いきなり後ろにまわしていた手を私側に突き出せば、私はその掌に包まれていたものに目を白黒させた。

「花、か?」

「ああ!外から摘んできた」

その掌に握られていた花は、淡い赤色の花だった。花の名前は分からないが、美しい。綺麗な女性に似合うだろうと思った。女性ではないが半兵衛様にもよく似合うだろう、美しいから。なんて考えていれば、家康は私の頭に花を飾り付けた。

「貴様何をしている」

「いや、美しいと思ってな」

「なっ…」

こいつは何を言っているんだ。
そう思って相手を睨みつければ、それを見た家康が目を丸くする。何故睨まれてるかさえ分からないのだろう。流石に呆れる。三成は美しいだろう?と首を傾げられればもう何も言えない。

「貴様…」

「三成顔赤いぞ!熱でもあるのか」

「……!」

慌てて顔に手を当てれば、成る程確かに熱いと思う。恥ずかしい、私は心のどこかでこの言葉を喜んでいるのか?いやまさかそんな筈ないっ…!


「なあ、ワシ」

「な、なんだ…」

「好きだ」

「はあ!?」

「それじゃ!」

「はあああああ!?」


いきなり愛の言葉を放ったと思えば、そのまま逃亡した相手をぽかんとした顔で見送れば、みるみると身体が熱くなってくる。な、なんだこれは!奴も奴だ!言い逃げなんてっ…


「ずるい奴だ…」






君と笑おう
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