優しいとは温かいものである(家三)

※関ケ原?








「愛してた、本当なんだ」


今更な言葉を平然と口に出す目の前の男に三成はただ視線を向けるだけだった。「そうか」、ただそれだけの言葉を吐く。心無しか家康の目は潤んでいるように見える。今にもその真っ直ぐな瞳から大粒の滴がこぼれそうだ。なんて、思ってみる。

「そうか、じゃあこれで満足か」

相手を睨みつけながら片腕を捕まえる。うろたえる奴に小さな口付けをした。一瞬の出来事だったが、今も鮮明に、この瞬間の感触を忘れていない。柔らかいあの感触を。思えば今のこの瞬間を経験したのは初めてじゃないかと思う。初めてが奴なのは大変気に入らんが、それでも心の片隅で何かを感じた。感じてしまった。離れた唇、動揺した相手の顔が僅かに朱に染まり。段々と朱色が濃くなってきた奴の頬。何もかもが、全てが、憎い。憎くて、憎くて、思わず叫ぶように気持ちをぶつけた。
「これで満足か?!満足したなら死ね!満足していないのなら何回も何回も唇を奪う!私は愛していたという言葉が嫌いだ!大嫌いだ!!貴様なんか大嫌いだ!貴様のせいで何度も何度も私は失った!何を失ったか?何を失ったか聞きたいか?自分だ、自分!貴様のせいで何度自分を失っただろうか?!何度もだ何度目だなんなんだ?!私は貴様が嫌いだ!返せ!返せ!私を返せ!貴様といるだけで心拍数までもが狂ったような気がするんだ!そこまで私はお前が嫌いなんだ!!だから貴様がっ…私は……」

家康が力無く笑い、私を包んだ。

「ごめんな三成ごめん」

頬には冷たいものが伝っていた。ぽろぽろと零れ落ちていく涙、そうこれは涙だ。戦場で涙を出す奴があるか、馬鹿め。だから嫌いなんだ。貴様なんか。


「大嫌いだ」

「ああ」

「…嫌いだ」

「……ああ」


こいつの体温は何故こんなに温かいんだろう。温かい、嗚呼。こんなにも。







「温かい…な」

「…ああ」








壊れないで、愛しき君よ
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リゼ