そんな君が大好きで(宗清)2

「きっ…よま…、…っ……くっ…」
「む、無理すんな。落ち着け」
しゃくりをあげながらやっと開いた口は震えながら音を出した。しかし、その言葉は最後まで出されることはなく、清正は背中をさすっていた。



何度も似たようなことを繰り返して、宗茂はやっと落ち着いたように口を開いた。
「きよま…さ…、ごめん…来てくれたのに…」
「ばっ!…お前が謝ることはねえよ、俺が勝手に来たんだから」
放たれた謝罪の言葉に、清正は眉をしかめてしまう。そしてお前が謝るなと言うことを伝えると、宗茂は清正は優しいな、と呟く。
「(…優しいのはお前なのに)」
勝手に押し掛けてきて、しかも泣いてるお前になにもできなかった。その事実が清正のプライドを傷付けていた。そしてそんな自分を責めずに、優しいという言葉で包む宗茂の方が絶対に優しいと清正は思った。

清正は宗茂が泣いた理由が知りたいが聞けなかった。あの宗茂があんなに苦しそうに泣く、その理由。しかし聞いてしまったら、宗茂を傷付けることになるのではないのか。

心の中で天秤を傾けながら考えていると、宗茂が清正の額に口付けた。いきなりの柔らかい感触に清正の体がびくりと跳ねた。顔をあげると宗茂は潤んだ目で、清正の顔をじっと見ていた。

「むっ…むね…しげ?」
「なんだ?」
「な、なんだじゃねえっ!!」
そう叫んで宗茂の体を押そうとしたら、その手を捕まれた。振り払うことも出来る、が今傷付いている宗茂に攻撃的な行動は良心が痛んでしまう。そう悩んでいる間にも、体勢を倒され押し倒されていた。
「むねし…げ…、お前…なんで?」
さっきまで号泣していた者がやる行為だろうか。清正は宗茂の行動が理解できない、と言った。
何か言ってくるのかと思っていたが、意外にも首を傾げて宗茂は黙り込んだ。
「……?」
「おい、宗茂?」
なんの返答も返ってこないという状況に、不安になった清正は宗茂の名前を呼び掛けた。すると余りにも酷い言葉が返ってきた。

「なんだ、この為に来たんじゃなかったのか?」



ばちんっと痛そうな音が部屋に響き、その音と踊るように宗茂は殴り飛ばされた。


「んな訳あるかあっ!!!!!!」

否定の言葉を叫んだあと、意識が朦朧としている宗茂に掴み掛かって強く言葉を放った。

「急にお前に会いたくなったんだよ!俺だってわかんねえよ!!なのに…お前なんか大嫌いだあっ!!」

もう一発殴ろうとしたが、流石にこれ以上殴ると同盟破棄ぐらいされるような気がしてやめておいた。そして立ち去ろうと襖に手を掛けたとき、すっと宗茂の手が伸びて清正を後ろから抱き締めた。
「なっ、やめろ馬鹿」
「やめない」
「殴るぞ」
「殴られても離さない」
「…蹴るぞ」
「蹴られても、離さない」

ふざけんな!!と叫び、一発殴ろうと宗茂側に振り返ると思ったより近い宗茂の顔に清正は動きを止めた。
「ちかっ…!?」
「離さない」
「なにいってんだ…んぅっ!」

いきなり接吻され、清正は黙り込む。遊ばれているのだろうか、それとも…
「俺は本気だ」
宗茂の真っ直ぐな目に、清正の心臓の音がばくばくとなった。清正は自分の心臓がいうことを効かない、そんな状況に目眩がした。
男相手に、そしてこんな奴にこんなにも胸を鳴らすなんて恥ずかしい。清正はそう考えながら、恨めしいその心臓に手を当てた。いっそのこと心臓が飛び出てしまえばいいのになんて考えながら。すると宗茂はふっと笑い、清正に言葉を放った。


「心臓の音凄いな」
「っ!!!」

清正が顔を赤らめて、わなわなと右手拳を震わせると宗茂は悪かった、と苦笑した。

気付くと窓から微かながら、太陽の光が差している。一夜という短いような出来事は恨めしいくらい運命のような夜になってしまった。


唯の知り合いがこんなにも特別になる、今までの経験からしたら一番速くなってしまったんだろう奴は。三成や正則だって積み重ねてきた思い出からゆっくりゆっくりと特別になったのに、この男はたった一夜で。



最速で最強の奴は、まるで風のようだった



「そんなお前が大好きで」




清正が宗茂に対しての特別が違う意味の特別になっていると気付くのは、もう一夜必要です。

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リゼ