たまにはこんなのも(サコミツ)

女官達が騒がしく働く昼間、左近は部屋で唯ぼうっとしていた。普段は呆けることなく、仕事や趣味をたしなんだりとする事はたくさんあった。
しかし、今日は唯呆けていたかった。理由などなく、唯どこかもわからない何かを見つめていた。
鳥の囀りと女官の騒がしい足音だけがその部屋の唯一不規則な音だった。

そんな無駄のような時間を過ごしていると、遠くから足音が近づいてきた。
自分に用があるとは限らないが、もしかしたらとなにかわからない期待を胸の内に秘め、だるい身体を動かして襖に手をやった。足音はもう近くまできていた。

襖を開けたら、眩しい日射しに目を開けられなかった。
眩し、と呟いて目を反らすと足音の原因と目があった。
自分の期待は当たったのだろうか。
「左近」
そう呟いたのは、主・石田三成だった。
石田三成の淡い茶髪が、日射しを浴びて光っていた。どちらが日射しを出しているのか分からなかったが、不思議と三成は太陽の様にみれない訳ではなかった。

「殿、どちらに?」
「左近に用があった」
はあ、と呟きながら手招きで自分の部屋に誘う。珍しく素直に殿は部屋に入ってきた。

襖を閉じたら、やっとさっきの空間に戻ってこれた気がした。しかし不規則な鳥の囀りも女官の足音も、三成がいるだけで気にならなかった。

「殿、用とは?」
床に座り込んだ三成はその質問を聞いて、くつくつと笑い出した。何がおかしいんだろうと左近は思っていると三成が口を開いた。
「用なんて、ない」

「へ?」
思わず出た声にまた三成は笑い出した。左近はさっきの言葉は自分を騙す為の言葉とやっと理解し、苦笑した。
「殿、なぜそんな…」
「この部屋は涼しいからな」
この時は妙に納得しつつも、あとで左近は三成の部屋と左近の部屋の温度差などたいしてないことを思い出すがそれは後の祭りである。

左近は寝転がって、さっきのように色んな音に耳を済ました。意味のない時間と思っていたが三成がいるだけで、この時間は戦場を駆ける自分にとって唯一の休息のように思えた。
三成は一つ欠伸をし、左近の横に寝転がった。
「殿も呆けられるんですね」
「俺だって人間だ」

他愛もない会話をして、二人は唯呆けていた。

何もない部屋に不規則な音。鳥の囀りと女官の騒がしい足音。そして二人分の寝息だった。




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