「本日付であなたの部下となりました、」

「名前は、いい。聞いている」

「は…」



美食會本部にて、呼び出された私はかの副料理長の前で跪いた。私よりも遥かに高い身長の副料理長を前に床に伏せると、私などとてつもなく小さい人間に思える。いや、実際そうなのだ。今朝目覚めた時、ベッド際にいたアルファロ様に言われたのだ。小さいものですね、と。またアルファロ様はこうも言われた。脆くありながら、運が良い。
運、確かに私は運が良い。まだ美食會に入ったばかりだというのに、あのスタージュン様のお傍近くに控えさせて頂くことができるのだから。



「用事があれば何なりと申し付け下さい」

「ああ…」

「…如何されましたか。顔色が優れないように思いますが」

「お前は、本当に何も…」

「はい」

「いや…いい。待機しておけ」



黒尽くめで、重量のあるマントを音を立てて翻すとスタージュン様は行ってしまわれた。後に残された私はその場に立ち尽くした。早々に待機を命じられるとは思ってもみなかった。
この様子では待機がいつ解かれるか分からない。私は本部内を少し見て回る事にした。何せ来たばかりで知らないことが多い。



「あ…」

「ジョージョーさん、でしたね」

「そうじゃ。しかしお前も難儀じゃったな…もっともスタージュン様がおいたわしゅうて敵わんが」

「スタージュン様がどうされたんですか」

「…ワシの口からはあまりに不憫で、言えんのぅ」



そのままジョージョーさんは言ってしまった。腰の曲がった姿勢が何かに耐えるように廊下を歩んでいく。ジョージョーさんは会う度に、私を以前から知っているような口振りをする。今朝一番に出くわした時もそうだった。不思議だ、会ったことなどなかったはずなのに。
私は誰もおらず冷たさだけが漂う廊下をひたひたと歩いた。足が勝手に動いた。まるで知っているかのように。その日は他に誰にも会わなかった。待機命令もそのままだった。




「おはようございます、スタージュン様」

「早いな」

「いつでも命令を聞けますようにしておりますので」

「今日は料理長から任務を受けている。お前も付いて来い」

「はっ!」



お傍に付いて二日目にしてまさか任務同行を許されるとは思わず、少し驚いた。
驚いたのはそれだけではない。任務中に感じたことだ。これが初めての任務同行であるはずなのに、私には次にすべきこと、スタージュン様をどうサポートするべきか、危機への対処法、教えてもらわずとも何となく分かった。そして実行できた。自分には長けていることはないと考えていたのだ、それがこうまで上手くいくと驚きを隠せない。



「捕獲成功だ。本部へ戻るぞ」

「はい」

「その腕は失われていないな」

「は、私の、でしょうか」

「お前はどこにいるんだろうな…」



私の元を離れていってしまったな、とスタージュン様は私の目を捉えて言った。仮面を付けていないスタージュン様の目は、私の目を見ていながら私を見ていないような気がした。言葉だってそうだ。まるで、私以外の私を探しているような。私以外に私が存在などするのだろうか。それならば、今の私は?スタージュン様、この私は何なのですか。



「無駄口が過ぎた。戻ろう」

「………」



私はここです、スタージュン様。








数日前ノ事

(私の部下がヘマをやらかしたと…まだ使えそうですか)
(使えるには使えるでしょうが…頭を強く打ったようですね。彼女、記憶喪失のようですよ)
(記憶喪失…?)
(まあ捨てるには惜しい能力を持ってますからねえ…どうします?処分か、またイチから使い直すか)
(…使いましょう)
(では、そう伝えておきます)










――――――
「トリコ夢小説企画」さんへ提出しました。
企画の場を設けて頂きありがとうございました!




リゼ