「それを拙者に言えと申すかっ!」
部屋に入ろうとドアノブに手を掛けた丁度その時、五ェ門の怒号が飛んできた。
「ど、どうしたの?そんなに大声出して」
部屋には皆が揃っていた。皆して、五ェ門を囲んで話をしていたらしい。
でも五ェ門虐められてるような図だな、これ。
しかも皆が一斉にこちらに振り向いたから、ちょっとたじろぐ。
「なあに、皆……何かあった?」
話の中心であっただろう五ェ門の姿を見ようと覗き込むと、それはそれは真っ赤だった。
「なっ、ぁ……なまえっ」
五ェ門は私の姿を認識するとわたわたと慌て出した。元々赤かった顔がもっと赤くなる。
大丈夫かな?爆発する勢いだよ。
「す、すまぬっ!」
すると物凄い速さで部屋を飛び出していってしまった。
部屋に残った者は私以外楽しそうにくすくすと笑っている。
「ルパン、ちょっといじめすぎじゃない?五ェ門真っ赤だったわよ」
「五ェ門ちゃんってばほーんとーにウブなんだからなー」
「はははっ。らしくて良いじゃねぇか」
「………五ェ門をいじめるような事言ったんだね。五ェ門、拗ねちゃうよ」
走り去っていった五ェ門がどういう顔をしているか、想像して笑ってしまいそうになったが、それは可哀想なので堪えた。
「でも、五ェ門からあんな事相談される日が来るとはなぁ〜。くひひっ。あの五ェ門が、」
「そうよねぇ。私も驚いたわ。意外と可愛らしい所があるわよね」
「ぷっ、五ェ門が可愛らしい……ね。傑作だな、そりゃ」
未だ笑い続ける三人に若干の疎外感を感じる。
私、おいてけぼりくらってるね、これ。
と不二子さんがちょいちょいと手招きをして私を呼ぶ。
「ふふ……いい?なまえ。これから五ェ門にどんなことを言われても、驚いたりしないでね」
「は、はぁ……。何だかよく分からないけど、分かった」
五ェ門はいつも不憫だ。純で素直であるが故に一枚も二枚も上手な彼らに弄られる。
その度にフォローするのは私なのだが、
その夜。もう寝ようかと思っていた時、カーテンの閉められた窓から小さな音が聞こえた。
窓から、音?
まさか泥棒じゃあるまい、と勘繰るが、そう言えば私が泥棒じゃないか。
それでもコツコツと音が止まないので、思いきってカーテンを引くと、
「ご、五ェ門っ!?」
外気の寒さに鼻を赤くさせる五ェ門の姿があった。
って、ちょっと待ってよ!
ここ曲がりなりにも三階だよ!? 例え三階じゃなくても、普通にドアノックしようよ。
びっくりしたけど、とにかく寒そうだったので急いで部屋へと招き入れた。
「…っへっくしゅっん!………すまぬ、なまえ」
「何してたの……?五ェ門。新しい覗きの方法?」
「ち、違うっ!!……………お主に申したい事が……あって………」
「私に何か申したいんならまず…普通に来よう?」
特に怒っていた訳ではないのだが、少し責めた口調になってしまって、五ェ門がしゅんとなる。
「………怒って……おるか?」
「怒ってなんかないよ〜。それで?申したかった事って、何?」
「あ、それが、その………あー、ごほん。では、」
がっと肩を掴まれ、じっと目を見詰められる。その目があまりにも真っ直ぐで、逸らせなかった。
「お主の心を盗みに来た」
……。
…………。
………………。
「え、それこのタイミングで?」
「ルっルパンがそう言えと!そうすればなまえが喜ぶだろうと……」
タイミングは明らかにずらしたが、確かにルパンが言った通り、嬉しかった。一応私も女であるからトキメキというものも持ち合わせている。(普段どんなに縁遠くとも)
「あー、なんて言うか……ありがとう。ありがとうっちゃおかしいか。でも私の心は五ェ門に盗まれてるんだよ、とっくの昔にね」
ほうら、心臓が早鐘を打ってるや。止まりそうもないよ、どうしてくれるのさ、五ェ門。
このまま鳴りすぎて止まってしまうんじゃないかな。でもそれも五ェ門が原因ならいいや。本望、って奴だね、ねぇ、私の心。
止まれ、心臓
(高鳴る)
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