私は過信していた。
あの人は無敵で、とても強くて。だから安心していた。
仕事を終えて帰って来るときはルパンと次元と一緒にニヤリとした笑みを浮かべてるのが当たり前だと。
だから、だ。自分でも驚く程に取り乱してしまった。
五ェ門が、大怪我をして帰って来て。
「なまえすまねぇ。ちょっと頼めるか」
「お帰りなさい………っ!五ェ門!?」
夜も深くなった頃。アジトに帰って来た五ェ門は酷い姿だった。
「相手が卑怯な手を使いやがって………五ェ門が巻き込まれた。ルパンはケリつけに行ってる。もうすぐ帰ってくると思うが……。手当てできるか?」
「もちろん!直ぐに手当てしなきゃ……っ、酷い傷よ」
震える手で五ェ門の傷を手当てする。
だが手は震えるのに、不思議と頭は冷静だった。手だけが震えて、適切な処置を施していく。
「なまえが医学の心得を持ってて助かったが………すまねぇな。五ェ門に怪我ぁ負わせちまった」
「それは、五ェ門本人に言ってよ。私は、痛くないんだもの……」
「いいや。お前さんも痛い筈だぜ。心がな。………でなきゃ、そんな苦しそうな顔で震えたりしねぇ……」
次元は私の震える肩を引き寄せると、静かにこう言った。
「今夜は俺の胸で泣け」
「泣かないけど、胸、借りるよ」
「…………ん…」
眩しい光に五ェ門は目を覚ます。夜は明けて、どうやら朝になったらしい。
「ああ、良かった…。五ェ門、気分はどう?」
暖かな微笑みを浮かべたなまえに頬が緩む。この傷で死ぬことはないとは思っていたものの、どこかほっとした。
「手当ては………お主がやったのか」
「うん。痛まない?」
「まだ、少し……。………む」
そこで五ェ門はなまえの目が少し赤いことに気付いた。疲れの色も窺える。気丈そうに振る舞ってはいるが。
「すまぬ……。無理をさせたようだな」
「そんなことないよ。私は大丈夫」
ゆっくりとなまえはベッドに腰かける。ふわ、と香る彼女の匂いから少し煙草の匂いがした。
「五ェ門が無事で良かった。もう、どうしようかと、」
「拙者は……負けてしまったのだな」
「負ける…?でも、逃げ出さなかったんでしょう?それに五ェ門は今ここにいる。なら、勝ったも負けたもない。偉いと思う」
「偉い……?そんなことはない。死ななかっただけ運が良かったと言うだけだ」
するとなまえは悲しそうに眉をひそめた。何か言いたそうだったが、何も言わずにいた。
五ェ門も何か言わなければと思ったが、まだ働かない頭は何も告げてはくれなかった。
「ねぇ、五ェ門、」
「何だ」
「何でもない」
じっとしてて、と額に指が置かれる。置かれた場所に小さなキスを落とされた。
「もうちょっと寝てなね、五ェ門。今、水を持ってくるから」
立ち上がったなまえからまた煙草の匂いがして、後で次元に礼を言わねば、と、五ェ門は目を閉じた。
キラリ、白刃。逃げずにここに
(一生の不覚)
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