「珍しいね、五ェ門がこんな失敗するなんて」

「うむ………少し考え事をしておって」



驚いたのは彼の手に嵌まる銀の環の存在だ。
今夜の獲物は簡単だから、とルパンが言っていたからてっきりすんなりいくものだと思っていた。銭形警部はやはりやり手だ。相手がルパンでなければ敏腕の名は欲しいままだろう。



「ルパンと次元は?」

「時間をずらして戻る手筈だ。直ここに帰ってくる」

「なるほどね。ルパンと次元は心配ないとして……。じゃあ五ェ門の手錠から外そうか」

「すまぬ」



それこそ本当に捕まった罪人のように手を高く差し上げている五ェ門はいつもの姿とは違った。情けなくさえ思える。



「暫くじっとしててね」

「うむ」



手錠の外し方はルパンから既に教わっている。しかし、ルパン仕込みとはいえこういったことには殆んど素人である私は、外すのに時間が掛かる。その間中、カチャカチャとなる金属音以外は沈黙が続いた。



「よし!外し終わった!」

「おお、腕を上げたな。以前より早くなった」

「へへ、ありがとう。五ェ門、手は痛まない?」

「少し赤くなっただけだ。大事ない」



男性にしては美しい五ェ門の手は、本人の言う通り少し赤みを帯びていた。
痛々しくみえるそこを労るように撫で擦ってやると、五ェ門はくすぐったそうに身動いだ。そして直ぐに私の手を包み込むように自分の手を重ねる。



「五ェ門の手はきれいで大きいね」

「なまえの手は小さくて可愛らしいでござるな」

「今日も、あなたが無事で良かったよ」

「お主が拙者を待っておる限り、拙者は死なん。何があっても、な」

「何それ、くさいなぁ。でも嬉しいよ、ありがとう!」

「拙者こそ、お主に感謝せねばならん」



私たちの手はいつの間にか、絡み合っていた。そのことに彼自身は気付いていない。気付けば慌て即座に離されてしまうだろうから、言わないでおこう。こんな他愛ない時間がずっと続けばいい。
そう願った矢先だった。玄関から物音が聞こえ、あの二人が帰宅したのに気付いたのは。


もちろん、手を繋ぎ合ったままの姿を見られたのは、言うまでもない。



鎖の環から貴女を覗く
(二人にはからかわれたけど、それでも私は幸せだった。)





リゼ