買い出しの為に外に出た。風の冷たさに思わず愚痴が漏れる。



「うぅ……寒い、寒いよ」



ずずっと鼻を啜る。

この冬一番の冷え込みだとテレビで言っていた。なのに、この侍ときたら、



「この程度の寒さでへたるとは………修行が足りぬぞ、なまえ」

「私は修行なんてしてないもの………」



何故こんな平気な顔が出来る。
コートはおろかマフラーすら巻いていない五ェ門。
一方私はと言うとコート、マフラー、ニット帽に手袋のフル装備。でも、寒い。それ程の寒さってこと。
すれ違う通行人だって皆同じ様に身を縮こまらせている。きっとそれが正しい反応だ。
ふと、前から歩いてくるカップルが目に入った。こんなに寒いと言うのに二人は幸せそうに笑い合い身を寄せ合いしてすれ違って行く。



「…………いいなぁ…」

「何がだ?」

「………ん」



悪いとは思いつつ先程のカップルを指差す。そちらに視線を向けた五ェ門は少しだけ頬を朱に染めて直ぐに目を逸らせた。



「ばっ、馬鹿を申せ。あの様なことがしたくばルパン辺りにでも頼めば良かろう」

「うへっ!私は五ェ門とが良いの!それとも何?五ェ門は私とルパンがああいう風にイチャイチャしてても構わないって言うの?」

「それは………」



そこまで言って五ェ門は黙り込んでしまった。そんな悪い空気のまま店に入り、目的の物だけ買ってまた寒空の下に出る。

思い返すのは先程の光景。……ちぇ。五ェ門もケチだなぁ。恋人同士なんだからあれくらいしてくれたって、減るもんじゃないのに……。



「なまえ」

「…何さ」

「まだ怒っておるか…?」

「……怒ってないよ」

「ならもっとこっちに寄るでござる」

「え……なん………わっ!」



ぐいっと片手で腰を寄せられる。急激に縮まる距離に跳ね上がる心臓。持っていた紙袋が落ちそうになり慌てて持ち直す。



「どうしたの、急に」

「お主がこうして欲しいと申したではないか」

「だからって…………ま、いいや。ありがと、五ェ門。温かい……」

「………アジトに帰るまでだからな……」



少々粗っぽさはあるけど五ェ門らしくて頬が自然と弛む。

現金な女だって?そうかもしれない。そうかもしれないけど、それで構わない。幸せなこの時を邪魔する事は誰にも出来ないって、そう思っているから。……なんて。



風も俄に冷たく
(最初っから冷たかった風も、幸せで暖かく)





リゼ