夕刻、なまえが買い物に出るという。一緒に来るかと問われ少々躊躇したが行く事に決めた。
今の俺はこの世に在ってこの世に無い。俺のいるべき世へ、徐々に戻り始めている。今日が終わる頃には、俺は完全にここから去るだろう。誰が言うでもなく直感がそう言っている。間違いはねぇ。
悪ぃと思うのは、なまえの荷物を持ってやれねぇって事だ。俺はなまえ以外の誰にも姿が認識されねぇ様だから、出来りゃあ特異な事態になるのは避けてやるべきだ。



「夕陽が眩しいですね」



辺りは陽が染めて赤い。俺が知らなかった場所、知らずに済んだかもしれねぇ場所。俺の立つ地面は、足が汚れる事もねぇ、石で覆われた道。空気はちぃっとうまかねぇが、いつ何時誰に襲われるとも心を配らなくて良い泰平の世。民は裕福な顔で生きている。綺麗な時代だ。
それにしても眩しい。なまえの言葉通り。己のツラが元々そんなに穏やかなモンじゃねぇのは承知してる。今はそいつに重ねる様に顰めてるだろう。それを、なまえに見られた。コイツはコイツで溢れ過ぎる夕陽から逃れる様に振り向いた所為で、まだ顔に苦しさが残ってやがる。可笑しなツラだ。



「…目に染みるな」



光から逃れるのとは違う目の細め方をしたなまえに、厄介で面倒なモンが込み上げて来る。俺は、コイツの前から消えなくちゃならねぇんだ。今夜、コイツが眠りに落ちる頃には。明日の、朝には。俺は、帰る。



「きれいですね」

「ああ…」



名残を惜しむなんざ、らしくもねぇ。念願だったろ、ずっと。



「早く帰りましょうか」



俺の不断が目の前まで迫っている今、どう足掻いた所で変わりはねぇ。なら、その変わりねぇ間、少しでも共にと欲する。その心を、知られねぇ事を祈る。なまえも、残酷な事を言いやがる。



「いや、急ぐ必要もねぇだろう」

「そうですか?まあ、ないと言えばないですけど…」

「なら、ゆっくり帰ろう。この時代の人間はせっかち過ぎる」



言い訳としちゃ不十分だろうが、なまえは納得したようだ。それで良い。
何時の間にか合わせるようになっていたなまえの歩調が、俺の言葉で一段と速度を緩める。だが、歩みは止まらない。止まらず、歩み続ける限り、何時か必ず道は終わる。




リゼ