グラス二つに冷たい緑茶を注ぐ。氷がカランと音を立てる。見た目の涼しさは完璧。氷の音も良い効果を生むだろう。文明の利器・冷蔵庫様でキンキンに冷やしたくずきりとわらび餅に糖蜜をかけ、出陣準備は完了。
盆に涼をのせてなまえは鼻歌交じりに部屋を出る。目指すは隣の部屋。彼が一時の居を構える場だ。



「ヘイ!お茶でもしませんか!」

「誰かと思やお前か。デケェ声出しやがる」

「おやつなんていかがでしょう」

「おやつ…?」

「あー、えっと…間食?いえ、ちょっと一息?です」

「ああ、なるほど。入れ」

「わっ、そんな、私持ちますよ。あ…ありがとうございます」



有無を言わさずなまえから盆を取り上げて、彼は殺風景な部屋へなまえを通す。彼の部屋には物がない。引っ越しが済んだ後のように、物がない。それもそのはず。彼は着たきりでここへやって来てしまったのだ。彼の持っているものと言えば、来た時に着ていた着物と鎧、事の発端となった「黒龍」の刀ともう一振り、さらにこちらへ来てから宛がった洋服類、それくらいだった。その他の生活用品一切はなまえと共用。いつ帰るか分からない身、あえて買い揃える必要もないとの二人の判断だ。
それゆえ、机もない。そんなことはなまえも承知済みのため、盆を床に置くことには何も言及しない。戦国より来る彼には、馴染みだった。誰に憚ることもないので、腰を下ろして胡坐をかく。盆を挟んでなまえはちょこんと正座で座る。



「くずきりとわらび餅、どっちがいいですか」

「お前が食いてぇのを選べ。残った方でいい」

「いいんですか?」

「お前のモンだろ」

「じゃあ…くずきり頂きます。そしたら、これ」

「ああ、有難く頂く」



お堅いなあ、となまえは笑う。くずきりの椀を手に取ると、おいしそうにちゅるちゅるすする。それを見届けてから、彼はグラスを掴む。汗をかいたガラスの表面をじっと見つめ、手に水滴が流れるままにする。



「どうかしましたか?」

「…いや」

「もしかしてお腹壊してたりしましたか?」

「そうじゃねぇ。ただの考え事だ」

「そうでしたか…」

「何だよ」



ようやく彼がグラスに口をつけると、なまえが物欲しそうな顔で盆を覗き込んでいる。視線の先はわらび餅。穴を開けんばかりに熱い視線を注ぐ。対象はわらび餅だが、隣の糂汰味噌といった具合である。



「食いてぇならそう言え。ほら」

「いやあ、そういうわけにはいきませんよ…」

「そう言うことは涎を垂らさずに言うんだな」

「た、垂らしてませんよ!いえ、ちょっとでいいんです…一口だけ」

「全部やる。茶だけで俺ァ構わねぇ」

「いいえ、一口でいいんです!はい、あー」

「テメェで食え!」



開けた窓から夏の声が飛び込んでくる。交わらざる二人が一夏を過ごす、穏やかな昼下がりである。





リゼ