土方ver
先に千鶴verを読んでからこちらを読むことをオススメします




「じゃあ、今日は先に上がらせてもらうぜ」

机上に散らばった書類の束を無造作にかき集め、少ない手荷物を持ち立ち上がる。

「ん?ああ、そういえば歳は今日、妹さんに会いに行く日だったか」
「ああ。だからすまねぇな、近藤さん。後は頼んだぜ」
「勿論だとも!妹さんに宜しくな」

誰の警戒心も簡単に解いてしまう、朗らかな人の良い笑顔で歳三を見送るのは、この会社の社長である近藤である。
ひらひらと降られる手に、わかったと苦笑しつつ振り返し、歳三はオフィスを出た。



「よぉ、総司」
「あっれー、土方さん。もう帰っちゃうんですか?相変わらず、良いご身分ですね」

駐車場に向かっていた歳三の前方から、営業帰りの沖田がにやりと嫌な笑みを浮かべ歩いてくる。
毎度の如く、必ず最後に一言ついてくる皮肉に眉間に皺を刻みながらも、沖田の挑発に付き合うことはしない。
あちらのペースに乗せられて遊ばれるだけだと、もう身を持って知っているからだ。

「……今日はちょっと用事があるんだよ」
「ああ。確か妹さんに会いに行くんでしたっけ?」
「そうだ」
「へぇ〜!土方さんの妹、僕すっごく見てみたいな〜。きっと、いっつも眉間に皺を寄せて、難しい顔してるんじゃないですか?」

そう言って、憎たらしく眉間に皺を寄せ顔真似を始める総司に、歳三は呆気なく怒気を顕にして、総司を怒鳴りつける。

「てっめえ……総司っ!!言わせておけば」
「わあー、鬼の副社長が怒った!」

わざとらしく、怖い怖いと笑いながら会社へ走ってゆく総司の背中に、もうひとつ怒鳴り声をおまけして。
そうして歳三が車に乗り込んだ時には、既にもうぐったりと疲れていた。


*********************



以前より、近藤の実家は剣道の道場を開いており、子供の頃から技を競い合った仲間たちばかりが再度、会社を設立した近藤の元に集まった。
そのため社員はほとんど顔馴染みが揃っている。
だから、沖田などは以前と変わらない子供の様な嫌がらせをしてきたりするし、原田や永倉、斎藤や藤堂といった旧知の間柄の者たちは、上の立場である近藤や歳三に必要以上に恐縮することもなく、それが少し有り難くもある。

先程の沖田の言動も、歳三の家庭事情を昔から知っているからこそ軽口として成立しているのであって、もしかしたら沖田なりに歳三に気を使っているのかもしれない。
何故ならば。

「妹、か……」

歳三は初めて会う妹に、柄にもなく緊張していた。







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あきゅろす。
リゼ