物語の終わり、2人の始まり。〜side・side〜

市丸隊長が消えた―

それを聞いた時ボクは、どこかでホッとした。


亡骸さえ見つかっていないのだ。

うまく逃げ延びたのかも知れない。
隊長ならサラッとやってしまいそうな事だ。


逆賊である市丸隊長達を倒す為に戦ってきたのに、ボクは取り逃がした事を喜んでいる。

未だに分からない事だらけだ。
藍染は捕らえられてからも特に重要な事は喋らない。

分からない事が多すぎて、ボクは考える事を止める。

なんの為に?
いつから?

…じゃあボクを、世界を、どう見ていたんだ?


そんな事を考えても、ボクの中にその答えはありはしない。
思考はボクを絶望へと導くだけだ。



乱菊さんがいないと聞いた時には、ボクはそれがかすかな光りに思えた。


何も分からない。
分からない事には変わりはないけれど、
もしかしたら…。



「乱菊さん…。」
「…吉良。」

乱菊さんの瞳は微かに揺れていた。


部屋の外では、他の隊士達が何事かと野次馬に集まってきている。


「乱菊さん、これは?」
「あ、あぁこれ…。流魂街に引っ越すの。結婚するのよ。」

少し笑って言った。


「…そうですか。」
「うん。」


あぁ。
分からない事だらけだ。

だけど何故か涙が出る。


「吉良?」
「…いえ。おめでとうございます。」

乱菊の目を見て言いたいのに、前が霞んでよく見えない。


「…手伝いますよ。」



いつ以来だろう。
久しぶりに笑った。





ーーーーーーーーーーーーー



乱菊さんっ!
乱菊さん!乱菊さんっ!!


俺は途中人にぶつかるのも構わず、十番隊の執務室に飛び込んだ。


「乱菊さんっ!!」

見れば日番谷隊長しかいない。

「あ…。し、失礼しました。」
「いや、大丈夫だ。」

こんな事がもう何度もあったのかも知れない。
ここへ来る途中、何人かしょぼくれて十番隊隊舎を去る男達を見た気もする…。


「あの!乱菊さんが戻ってきたって…。」
「ああ。」
「ど、どこに!?」
「自室だ。今、流魂街へ発つ準備をしている。」

「流魂街?」
「ああ…。」


あぁ…。そういえば、戻ってきたと言う話を聞いて、慌てて飛び出してきたがそいつの話はまだ途中だった気がする。

「あっ!!待ってください檜佐木副隊長!松本副隊長は流魂街の人間と結婚す
……

今になってあいつの声が追いついてきた。

結婚。
なんで…。


「日番谷隊長、結婚って…。」
「そうだ。あいつは結婚すると言った。流魂街のやつとな。…それ以外は、知らねぇ。」

まさか、市丸と関係があるんですか!?
言いかけて俺は慌てて飲み込む。

おい
なんで…あいつの名前が出てくるんだ。


「俺が松本から聞いたのは、結婚して、これからは流魂街から通うという事だけだ。」


「そういう、事だ…。」
日番谷隊長はどこか自分に言い聞かせるようでもあった。

どういう事だよ。
何にも分かんねぇよ。


俺は部屋を出ようとした。
「あいつに会いに行くのか。」
「いえ。みんな会いに行ってるんでしょ?俺はいいっす、今行っても迷惑になるだけだ。迷惑には、なりたく無いですから。」
どんな顔をしていただろうか。

日番谷隊長が「そうか。」と呟いた時には、何番隊かも知れない男が飛び込んで来ていた。

俺はこんな姿だったのか。
ずいぶんと滑稽だな。




九番隊には少し遠回りして帰ろうと思った。

帰れば主…そう、東仙隊長を失った我が隊を指揮しなければならない。



いくら歩いても頭はさっぱり動いてはくれない。
でも一カ所に留まっていることも出来なかった。

ながらく行方が分からなくなっていた乱菊さんが戻ってきたのだ。
その喜びに任せて十番隊まで走ってきた。

そして今、何を怯えているんだ?

市丸隊長…。
あぁそうか、
俺はあいつの影をみたのか。

そうか。
あいつか。

あいつが…。


死よりも大きなものが乱菊さんを奪い去ってしまった気がした。



「檜佐木さん、どうしたんですかこんなところで。」
「吉良…。お前こそこんな荷も…」
俺は言葉を失った。
「あら、修兵じゃない、久しぶり!」

「ら、んぎくさん…。」
「あらどうしたのよ、その顔は。ああ、私なら大丈夫よ?5日も休んで元気充電してきちゃった。」
乱菊さんは笑っている。
俺は口をパクパクさせる事しか出来無い。

吉良が「い、行きましょう」と先を促し、乱菊さんは去った。
流魂街の方へ。




帰ろうと踵を返そうとした時、九番隊の隊舎が見えた。



気づくと後を追っていた。

「乱菊さんっ!!」
「どうしたの修平…。」

あぁ…
乱菊さんだ。

「乱菊さん。」

よかった。

「…お帰りなさいっ!」
俺は頭を下げた。


俺はなんて事を思っていたんだ。


顔をあげると、驚いた乱菊さんの顔があった。

その顔がパッと華やぐ。

「ありがとう。」



乱菊さんをさらっていったのが、死なんかじゃなくてよかった。

ほんとうによかった。



俺はこの笑顔をもう一度見ることが出来た。




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