物語の終わり、これからのはじまり。


なぁーギンってさぁ、
結婚式とかってしたの?

「え?」
「結婚式だよ結婚式。現世ではうえでん…なんだっけ?」
「ウェディングです。」
「そうそれそれ。とかって言うんだろ?こっちでもさ、やってたぜ隣のねーちゃんが。しょぼかったけどな、みんなニコニコしてたぜ?なぁしゅーへい。」
「…あぁ。まぁそうだな。」
「乱菊さんとは何かやったのか?乱菊さん死神だし稼ぎあるよなー?結構豪勢にやったのか?」

考えた事もなかった…。
そもそも自分は尸魂界の反逆者であり、乱菊もこうして共に暮らしている事は秘密にして瀞霊廷に通っている。
言うなれば「事実婚」というやつか。区切りをつけた訳では無く、助けられた時からそのまま今まで暮らしてきた。乱菊は、それをどう思っていたのだろう…。

「…ン!ギン!!」
「はぇ?」
「何ボーッとしてんだよ。らしくねーなー。調子狂うぜ…。」
「結婚に際して、何か特別な事をしたのか、という話でしたよね…。」
「あぁ…何もしてへんな…、そういえば。」
「嘘だろーっ!?それはダメだろー。乱菊さん陰で泣いてるかもしれねーぞ…?」

乱菊が…泣く?

「なんつー顔してんだよギン!!しっかりしろっ!!」
「いった…。」
頭を叩かれたのでこちらも思いっきり殴ってやった。
「お、おう…それでこそギンだぜ…。」
「何かされる予定は無いんですか?」
「する言うてもお金かかるやろ…。ボク今お金無いし。」
「プッ、それただのひもじゃねーか。」
「しゅ、しゅーへい君何て事を…!ギンさんがますます凹んじゃうじゃないか。」
「きら…もうおせーみたいだぜ…。」

乱菊が泣かずに済むように、それだけを考えて生きてきた。しかしそれは叶わず、結局のところ一番泣かせていたのは自分だった。自分を見失い、世界を、乱菊を見失い…多くのものを犠牲にした。それでも見捨てずに抱き締めてくれた乱菊の温かさは、ボクに“今”を見つけさせるには十分だった。
本当の笑顔を取り戻せたのは、すべて乱菊のおかげだ。
泣かせた分、何度だって愛を伝え、何度だって抱き締める。それが今出来るせいいっぱいの償いであり、感謝の形だと思っていた。

しかし…
今全ての収入は乱菊に頼っている事になる。確かに「ひも」だ。本来なら、夫であるところの自分が贅沢をさせてあげるべきだ。
式を挙げさせることも出来ない。何をしているんだ…。隊長の頃の稼ぎがあれば…。今の暮らしには満足しているし、それは乱菊も同じだろう。しかし考えずにはいられない。得たものはとてつもなく大きいが、失ったものもやはりある。

はぁ…なんて情けない。

はぁ…。
はぁ…。

「おい…どうすんだよ、これ。」
「知らねーよ!そういうの、現世ではダメンズっていうらしーぜー。」
「しゅーへい君!いい加減に…」

「今日は帰って…。ボクなんや具合悪いわ。」
「「「………。」」」


****

俺ら3人は、ギンの家を追い出された後、あてもなくぶらぶらと歩いていて、町の空き地に辿り着いた。

「なぁ…。」
「なんだよ。」
「作戦会議、しようぜ。」
「はぁ?なんの。」
「ちょっと耳貸せ!」
「僕らの他は誰もいないけど…。」
「いいから!」
「しゃーねーな、まったく。なんだよ!?」
「〜〜〜〜〜」


****


《目一杯お洒落をして丘の木の下まで来てください。 しゅーへい、れんじ、きら》

「何…これ?」
今日は午後から仕事が休みで、家に帰ってきたところだ。
誰もいない事を不審に思っていると、この置き手紙を見つけた。
「あの子達、なに企んでるのかしら。」
ちょっと不安でもあったが、わくわくしてしまう。彼らは本当にいい子で、いつだって私たちを笑わせてくれる。
「何をするつもりかは分からないけど、せっかくなんだし久しぶりに気合い入れてお洒落するかー。」


****

秋の風が気持ちよくて、ボクは眼を閉じ、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
あの日を思い出す。

あの時も抜けるような空が広がっていて、こんな匂いがした。長く瀞霊廷で暮らしていたせいか、季節の香りをずっと忘れていた。

「ギン?」
いつの間にか近づいていた乱菊が怪訝そうにこちらを見ている。
「乱菊、おかえり。」
思わず目を細めていてしまう。こんな着飾った姿は久しく見ていない。
「ただいま。…あの置き手紙なんなの?ギンも絡んでるわけ?」
「う〜ん…なんというか。」
ボクは頭を掻く。何と説明していいか自分でもよく分からないのだ。
「まぁ…とりあえずついてきて。」
手を取ると、一瞬迷った顔を見せたが、握り返してくれた。
ボク達は歩き出す。


****

ギンに促されるまま丘を登る。
正直この服では歩きづらいのだが、そんな私の事を気遣ってくれてか、ゆっくりと歩幅を合わせてくれる。

丘には一本だけ木が生えていて、その木が徐々に見えてくると異変に気がついた。

ん?

「なにこれ…。」

近づくにつれ見えてくるのは飾り付けられた木。
幾重にも重なったレースで天蓋が張られている。
よく見れば細かな刺繍が施されていて、ビーズのようなものがキラキラと光っていた。

そして地面には…
一面にコスモスの花が。

様々な秋の花と共に敷き詰められている。
木に続く道には赤い布…

これはまるで…

「チャペルじゃない…。」
「分かってくれて、よかったわ。」
頭を掻き、照れたように苦笑している。

「こっち。」
天蓋の下まで来るとギンは私に向き合った。
「これなに?あの子達が?どうし…
「ちょっと、頭下げて?」

突然の事に頭がついていかずぽかんとしていると、ギンがそっと触れて頭を下げさせた。
「ギン…?」
何が頭に乗る気配がした。

横目で見れば、それが天蓋とお揃いのレースであることが分かる。
「これはな、ティアラの代わり。」
続いて草花で作られた冠が乗せられる。

「よう似合うてる。」
ギンは笑う。
そしてスッと真面目な表情になると私の両手を握り言った。

「乱菊、結婚しよ。」

「え…?」
「結婚式、してへんかったやろ?今さらやけど。」
言葉が出ない。

「こんなんしか出来なくてごめんな…。」
申し訳なさそうに話すギンの声はあまり耳に入っていない。もう一度辺りを見ればそこは今まで雑誌で見たどんなチャペルより素敵だった。
「ギン…」

ありがとう!!
私はその胸に飛び付いた。

「わぁっ!?」
バランスを崩して二人で倒れこむ。花の中へ。

「いったぁー…」
目を開けるとギンの顔が目の前にある。
ぷっ。
おかしくてふたりで笑ってしまう。

「あ…そうやこれ。」
ギンは懐から何かを取り出す。
そしてそれを私の指にはめた。

「大したもんや無いけど、結婚指輪。」
視界がぼやけてくる。
「乱菊…?」
心配そうな声がするがそんなギンの顔なんてもう見えない。

「ギン、大好き!!」
私は首に抱きつき、二人はまた花の中。

「苦しい苦しい。」
ギンは笑って背中をポンポンと叩いてくれる。
やっと起き上がって涙をふくと目が合う。
そしてゆっくりと唇を近づける。

誓いのキス。
ずっと愛し続けるよの約束。

少し離れておでこを合わせて笑いあう。
ああ幸せで、また涙がこぼれる。








「っぁああああー!!もう我慢ならねー!!昼間っからいちゃつくんじゃねーよ!!離れろバカ野郎っ!!」
「お前!今最高にいい場面なんだぞ!!」
「ああもうしゅーへい君っ!!こんな時くらい耐えてよ!!」

びっくりして私達は顔を見合わせる。

真っ赤になって暴れるのを、二人が必死に抑えようとしている。
もしかして、隠れてずっと見てた?

私は起き上がってその3人のところに駆け寄る。

「3人とも、ありがと!大好き!!」
まとめてぎゅっと抱き締める。

「あーーっ!!なんやねん!!やめぇ乱菊!!!!」
慌ててギンも走ってきて引き裂こうとするが、もうギンも一緒に抱き締めてやる。
「4人とも!4人ともだーい好き!!」

幸せで、胸が壊れちゃいそうっ!!




****

「なぁーむくれんなよー。」
「…知らねーよ。」
しゅーへい君はさっきからずっとこんな調子だ。
僕たちは空き地でれんじ君の思い付きを聞いた。
“結婚式をプレゼントしてあげよう。”
僕はもちろん賛成で、こんな思い付きが出来るれんじ君に心から感心した。
でも問題はやはり彼で…
「しゅーへい君、やろうよ!乱菊さん絶対喜ぶと思うよ?」
「………帰る。」

結局止めるのも聞かずにしゅーへい君は帰ってしまい、僕ら二人は取り残されてしまった。
「とりあえず…俺らだけで作戦会議するかー。」
「そうだね…。」

作戦はこうだ。
まずギンさん宅にある梅酒をちょっと拝借…というかいただく。それを売ってお金を稼ぐ。他に町の人の手伝いをしてお駄賃をもらってもいい。そのお金でなんとか式と分かるくらいには飾り付け、ちょっとたサプライズをする。

「まずは明日ギンに相談だな!」


****

俺はもう嫌気が差していた。なんで俺が…
さっきからそればかり考えている。このモヤモヤをどうすることも出来ず、家に帰ってきても部屋で寝転がっていた。かーちゃんは「ゴロゴロしてないで、ちょっとは手伝いくらいしなさい!」なんて騒いでるけどどーでもいい。

そんなとき、玄関の外からきらの声がした。「しゅーへい君、いる?」開けてやると、おどおどとするばかりでなかなか入ってこない。
「なんだよ…。」
どうせギンの事だ。
「あのね、乱菊さん…誕生日なんだ、29日。」

え?

「前にギンさんが言ってた。暦の勉強をしている時に。二人が出会った日なんだって…。それが29日、それを、乱菊さんの誕生日にしたんだって。」
誕生日…。
「だからね?一緒にお祝いしてあげたいなって…。あの…それだけ。じゃ、じゃあ僕帰るね!」
そのままきらは逃げ帰るように走っていった。
ちっ…。
「どこまでキザなんだよ、あいつは…。」


****

それを見せられた時、ボクは驚いて声が出なかった。

「これ!みんなで協力して集めたんです!」
興奮気味に話す顔はテカテカと光っていて、日頃の様子とはかけ離れていた。

「ぼーっとしてんなよ!くそっ…」
「まぁしゅーへい、キレんなって。」

「集めたって、どうやって…」
「あぁ…それは…」


****

「梅酒いりませんかー。」
「あ、て!手作りの味です!」
「………。」
「ほら、お前も声出せ!って」

「子供が酒売りとは感心しねーなー?」
「あ!いらっしゃいませ!」
「おう、八百屋のじいーちゃん!買ってってくれよ。ギンの結婚式の資金にするんだ。」
「ギン?あぁあのイケメンのにぃちゃんか。それはそれはめでてーな。…よっし!ここはカンパの意味も込めて高く買ってやろーじゃねーか!」
「おお!さすが!」
「ああありがとうございます!!!!」
「なになに、ギンちゃんの結婚式だって?なにか計画はあるのかい?」
「う〜ん…それが、よく分かんなくて…。」
「ダメじゃない!待って!今町の女の子みんな呼んでくるから!」

****

「そんなこんなで買ったレースの刺繍やら飾りつけのアドバイスやら…色々協力してもらったんです。」
「……。」

「っんだよ!さっきから!もっと喜べよ!」
「…ありがとう。ほんまありがとう。」

「ちっ、あああ!もう帰る!」
「どっちなんだよ、あいつは…。」
「まぁ、彼は彼で頑張ってましたから…。」



****

帰り道、並んで歩く二人の影は長く伸びていた。

何も喋らないが、お互い、幸せを感じているのだろうなと分かる。

やっぱり片手は繋がれていて、もう一方には…花束、ブーケがあった。

「なんや秋の花は華やかさにかけるな。」
「あらそんなことないわ?私は好きよ。花だけじゃない。この季節、特にこの日は全てが好き。」
「そやね。」
「大好き。」
「…うん。ボクも。」


また9月29日が特別になる。
“これから”の約束をした日。

生意気なキューピッド達が用意してくれたのは、秋の花のような…二人が出会った日のような、そんな幸せなプレゼントだった。


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