欲しいものはいつだってひとつだけ。

なぁ乱菊?
ボク等はなんで9月に出会うたんやと思う?

ボクはな、思うんや。
きっと神様が間違うたんやないかって。

忘れてたんやな。ボクという存在を。いや、最初から見えてなかったんかも知れんね。
色を発っする事も、声をあげる術も持っとらんかったボクやから。

それでな?
ある時なんのいたずらか知らんけど、突然ボクに気がついた。
慌てて誕生日にプレゼントを、て思たんやけどそれももう過ぎとった。
めちゃくちゃやな。

でも、お詫びに〜言うてその日
一生分の喜びをくれた。

世界をな、くれたんや。

だからな乱菊
ボクはなんも要らんよ。

他にはなんも。



****


はぁ…
今年もあの日がやってくる。

「どうしたんですか?乱菊さん。」
「え?あぁ、ごめん…。」
食堂で雛森、七緒と共に昼食をとっていたのだが、考え事をしていて、箸が止まっていたようだ。
「乱菊さんがため息だなんてらしく無いですね。」
「う〜…ん。」
無意識のうちにため息まで洩れていたらしい。
「話してみて下さいよ!」
「そうですね。微力ですが、何かお力になれる事があるかも知れませんし。」
例によってふたりは首を突っ込んでくる。
七緒など、日頃冷静沈着を装っているが、その実お節介で下世話な事に興味津々なのだ。
「う〜…ん。」

それがね…?


ー昨晩の話ー

「ねぇ、ギン?何か欲しいものある?」
「ああ…、誕生日?それ毎年聞いとるな。」
ギンは苦笑する。
「何も要ら…
「それも毎年言ってるわ?ねぇ、少しは祝う側の身にもなりなさいよね。祝う楽しさってのがあるのに、あんたはいつも非協力的過ぎるのよ。」
「そんなん言われても、ほんま何も無いんやもん…。」
「じゃあさ、何かして欲しい事とかさ。」
「して欲しい事ねぇ…それはあるけど言わへん。」
「なんでよ。」
「絶対怒るもん。」
「………あぁはいはい。だいたい分かったからいいわ。変態。」
「あれ?何を想像したんかなぁ〜。」
ニヤつく恋人の頭を思いきり叩くと乱菊はまたため息をつく。
「はぁ…。毎年毎年なんでこんなに悩まなきゃいけないのよ…。」
「なぁそんなんええから〜、一緒にお風呂入らへん?なんやったら乱菊がさっき想像した事を実践してくれてもええんや…フゴッ!!?
「もういいっ!人が真剣に考えてやってるのに!帰るっ!!」
鉄拳がまともにみぞおちに入ったギンは、動けずにフルフルと震えている。
「い…痛い。」
「じゃあね。おやすみ。」
「え?ちょ、ちょっとぉ!?ほんまに帰るん!?待って!待って乱菊ーー…」


って言う事がね…

「あったのよ!!!!」
「え?あの…つまりどういう…。」
「だ〜か〜ら!プレゼントをあげて喜ばせてあげたいのに、逆に喧嘩しちゃったって話!」
「喧嘩というには随分一方的な気もしますが…。」
「だってさ!いつもあいつは茶化してばっかり!!毎年毎年…私だけこんなに悩んで、馬鹿みたいじゃない!?」
「う〜…ん、どう…ですかね。」
「だいたい男のプレゼントってただでさえ難しいじゃない?女友達とかのプレゼントは簡単に浮かぶけどさ。」
「確かに、それはありますよね。」
「同性であるからというのもありますし、アクセサリーや雑貨など女性は趣向が分かりやすいですからね。」
「そうなのよ〜。ギンってほら周りにいろいろ置くの嫌うじゃない?余計迷うのよね…。」
「男の人ってほんとは何が欲しいんだろ〜。」
「………。」
「どうしたの、七緒…?」
「どうやら女性死神協会の出番のようですね。」
「「え?」」
「ちょっと、出掛けて来ます。」

七緒はさっと口元を拭うと、食べ終えた食器に向き合い、丁寧に「ごちそうさまでした。」とつぶやくと、席を立った。
その頬はわずかに紅潮しているようだった。
取り残された二人は、唖然として七緒が消えた扉を見つめていた。

「なにがあったんですかね…。」
「さぁ…?完全に仕事モードになっていたけど…。」


ー数日後ー

「ふえ…?」
十番隊の執務室のソファーでいつものようにだらだらと煎餅を食べながら雑誌を読んでいると、突如として、大きな見出し文字が目に飛び込んできた。

“実録!男の本音 本当に彼が欲しいもの”

「なにこれ…。瀞霊廷通信じゃない…。」

表紙を見るとやはりそこには《瀞霊廷通信》とあった。
通常の構成ではありえないような類いの企画だ。

まさか…。

「乱菊さん!これって…!」
部屋に飛び込んできた雛森の手にも、同じく通信が握られている。

「失礼いたします。」

ああ…やっぱり…
そのすました声を聞いて、乱菊は自分の憶測が正しい事を悟った。
声の主は振り返らずとも分かる。

女性死神協会副会長、伊勢七緒だ。

「これ、あんたでしょ…。」
「あぁ既にお持ちでしたか。そうです、私が檜佐木副編集長に圧力をかけました。」
「…今回の脅しのネタは…?」
「風俗嬢の方から入手いたしました。相当なヘタレエピソードです。聞きます?」
「いいわよ!!修兵…あんたって奴はつくづく…。」

哀れな副編集長は、誰かに真相を明かす事も出来ず、ただ“記事を差し込んだという不可解な行動”について質問攻めにあっているかもしれない。
東仙編集長に呼び出されている可能性だってある。

乱菊は今度の飲みの席では、私が奢ってやろうと静かに心に決めた。


「まぁまずは内容を読んでみて下さい。なかなか濃い仕上がりになっていますよ。」

二人は顔を見合せ、見開きの特集ページに視線を落とす。

―編集Hが直撃インタビュー!男の欲望を丸裸!―

「Hって?」
「檜佐木副編集長。」
「………。」

H)こここここちらが!今回の取材に協力してくださる、男性陣の方々です!拍手っ!!
(まばらな拍手…)
○○)なんなんすかこれは一体…。
○○)そうですよ…。ここの空気ヤバいですって。並みの隊士じゃ気を失ってしまいますよ…。
H)こいつら…いやこのお二人は、六番隊からの参加のR.Aさんと、三番隊からの参加のI.Kさんです。
R.A)参加って…俺は何も聞かされずに呼び出されたんすよ…。

○○)僕はねぇ〜、女の子との合コンがあるって言うから来たんだけどさ。どう見てもここに女っ気は無いよね〜…残念ながら。
○○)やはり君もか。私は盆栽教室があると聞いて…
H:はい!こちらが八番隊からS.Kさんと十三番隊からJ.Uさんです!

○○)おいテメェー舐めてんのか!?思う存分斬り合いが出来るんじゃなかったのかよ!チッ!俺は帰るぜ。
○○)私もこのようなところで貴様等のようなものに付き合っているような暇は無い。帰らせてもらう。
H:ちょ、ちょっと!!!ま、待って!

○○)まぁ二人とも。ここは私に免じて席についてくれないかな。彼もだいぶ困っているようだ。
H)あ、ありがとうございます…!あぁええっと…まず、十一番隊からK.Zさん、六番隊からB.Kさん、そして五番隊からS.Aさんです。
S.A)じゃあ、本題を聞かせてくれないか。“取材”と言っていたが、嘘をついてまで僕達に何を答えて欲しいのか。
H)で、では質問を…。

【Q】女からもらって一番嬉しいプレゼントって何?

一同)………。
H)お願いします!!俺のすべてがこの取材にかかってるんス…!!!!(号泣)
J.U)そ、そうなのか?それは大変じゃないか…!

S.A)そんなくだらな…簡単なことでいいのかい?僕はそれに気持ちがこもっていれば、何でも嬉しいよ(微笑み)。君達はどう思う?
R.A)えええ、俺達っすか!?俺は…サングラスとか嬉しいかも。あ…でも自分の趣味があるからなぁ〜。お前はどうだよ?
I.K)僕は…書物…とかなら何でも嬉しいかな。どんな本かで、相手の事や、自分への気持ちが分かる気がして…。あ!でももちろん何でも嬉しいですよ!
B.K)兄はそのような事で相手を理解出来たと傲るというのか。
I.K)え…!?いや、そんなつもりは…
K.S)そうだねぇ〜。僕は身につけるものが嬉しいかな。でも本当は、大胆なサービス、とか最高だけどね。夜とかさ。
J.U)な…!何を言うんだ!まったく君って奴は…
K.S)でも実際男の子なんてそんなものだろう?ほら、どうなんだいそこの二人は!?
K.Z)…ばっ//// ばか野郎!俺は剣にしか興味ねぇんだ!!斬り合いだ。…それが出来れば俺は…
B.K)私も///同意見だ。大抵のものは己の財力で手に入れられるのだ!コスプレして欲しいなどと言うことは…
一同)コ、コスプレ!!!!?
B.K)ハッ…!い、いや、今のは違う。兄等の聞き間違えだ。コ、コス…コスモスだ!コスモスと言ったのだ!
一同)へぇ〜…
B.K)なんだその目は…!!
S.A)君にそんな趣味があったとはね。いやもちろんコスモスの事だよ。ロマンチックでいいじゃないか(ニッコリ)
B.K)くっ…!
K.S)さぁさぁ盛り上がって来たじゃないか!君達はさ、どうなの!?初な振りして意外と…
I.K)ぼぼぼぼぼぼ僕は!!何もやましい事なんて…
K.S)君達若い男に浮いた話が無いなんて…冗談だろ?お遊びとかでもいいからさ、教えてよ!
J.U)やめないか。困っているじゃないか…
B.K)言え。
R.A)え…いやぁ…
B.K)言 え 。
R.A)………はい。 こないだ3人で酔った勢いで…その…行ったんですが…。
S.A)それで、どうしたんだい?
R.A)こいつは古風なメイド、俺は、その、“ツンデレ”が売りの店に…。だけど相手がツンしか無くて、心が折れて何もせずに帰ってきました…。
I.K)僕は喋ることすら出来ずに逃げ帰ってきてしまって…
S.A)ははは。それは君達らしいね。
R.A)この人なんかもっとヒドイですよ!おっパブに入っ…

―編集Hのプライバシー保護のため、オフレコとさせていただきます―

K.S)いやー笑った笑った。みんないろいろ趣向があって面白いね〜。ところでさ、ちなみに僕は背中フェチなんだけど、君たちはどうなのさ。


(延々と続く男子トーク)



「なにこれ…完全に話が逸れてるじゃない。」
「古風な…メイド……。」
「ちょっと雛森!?大丈夫よ、これはイヅルとかじゃないわよ!ね!七緒!」
「さぁ?プライバシーの侵害は出来ませんので。」
「あんたね、そんな今さら…。まぁいいけどさ、これ“男の欲しいプレゼント”の答えになってないじゃない。」
「そうですね、予想外でした。しかしそれはそれで売れているんですよ?売上の大半は、企画提供料として協会の方に入る契約を結んであります。」
「あんた…鬼ね…。」
「メイド…メイド…」
「雛森!?雛森ー!?」
雛森は、フラフラと覚束無い足取りで執務室から出ていった。
「では、私もこれで。今から会長と次の旅行についての打ち合わせです。」
「そ、そう…頑張って。」

何故か無駄に体力を消耗してしまった。
乱菊はソファーにどさりと横になると、天井を見上げた。

あ…。
(そう言えば、あいつの連載読んでなかった。)

のそりと起き上がると、「んな、アホな」とかいう馬鹿げたタイトルのページを開く。

(えーっとなになに…?)

《…、もうすぐボクの誕生日です。でもボク、ほんま物欲無いんです。それになぁ〜、もうずいぶん前に、人生で一番のプレゼント貰うてるから。最高に素敵なプレゼント…。子供ん時に拾うたその世界で一番綺麗なもんがな?今もずっと輝いてるねん。その輝きのプレゼントを今もずーっと毎日貰うてます。しいていうなら、それが曇らん事やね。輝き続ける事…。それが願いやな……。なーんてな!んな、アホな!……》

「それ、君のことやで。」
「ふわぁあああああああっ!!!!!!」
乱菊はその下らない連載の中の一部でしかない文章に釘付けになっており、近づく気配に気がつかなかった。
「バッカ!なにすんのよ!心臓止まるかと思ったわよ、バカ!」
「バカバカ言わんでよ〜せっかくええ場面やのに〜。」
「あ…。」
そうだ、これを読んでいたのだ。
これって…
「毎日プレゼントありがとうな。」

ちゅっ
おでこに落とされたギンの唇は、優しく温かかった。


(あーあ、なんであいつばっかりいい顔すんのよ。全部持ってかれたわ。ムカつく。)

でも仕方ないから…

「どういたしまして!」
満面の笑みで返してやった。
全力の愛を込めて。


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