「ほな行こか。」

ギンと乱菊は毎年、蛍を見に行く事を慣例にしていた。
二人とも浴衣にうちわ。
ちょっと気合い入りすぎかなとも思うが、やはりこのワクワク感に浮き足だってしまう。
まだ明るいうちから、ポイントへ向かいのんびり蛍の火が灯るのを待つのだ。

「ねぇ、今年はどこに行くの?」
ギンはいつも少し前から偵察に出て、その年一番多く出る所へ乱菊を連れていく。

「まぁついてきて。今年は特によう出てるからな、楽しみにしとってええよ。」
ギンもなんだか嬉しそうで、乱菊の頬も自然と緩む。
手を繋いで歩いていると、お互いの心臓の高鳴りが共鳴するようだ。

「へへへ。」
意味もなく照れてしまう。

だってこんなの、いかにも恋人って感じじゃない?


徐々に木々が目立ち始め、あっという間に景色は森の中。
割りと瀞霊廷の中心部から近い。

近くなる川の音に期待を膨らませていると、パッと開けた場所に出る。
綺麗な渓流だ。

「わぁ…。」
自然と感嘆の声がこぼれる。
周りの温度がすっと下がるような清々しい空気が満ちている。

「…いいところね。よく見つけたわ。褒めてあげる。」
背伸びをしてギンの頭を撫でてやると、照れたように避けようとする。

「ま、まぁ乱菊様の為やし、頑張らんとな。」


ふたりは川辺の岩に並んで座ると、暗くなるまでの時間を楽しむ。

日が傾き、赤い空に星が出始めた。

「まだかな。」
「そんな焦らんでももうすぐやて。」

日が沈み空は群青に染まる。

「あ。」
先に見つけたのはギンだ。

「見てみ、あそこ。」
まだ明るさが残るなか、蛍の光が見える。

「ほんとだ!」

そこからは早い。
一気に夜が降りてきて、ひとつふたつと光が灯る。

「綺麗ね…。」

あっと言うまにたくさんの蛍の中だ。

上には星が、下には蛍が、淡い光を浮かべている。

いつも思う。
この色を、なんと表現したものか。
ぴったりな言葉が見つからない。

ただ、蛍の光なのだ。


乱菊は岩から降りて、その光を捕まえようとしている。

「ねぇ、ちょっと歩こう?」


「捕まえた。」
ギンはすぐに捕まえてしまう。
捕まえては放す。

乱菊はなかなか捕まえられない。
すっと手からすり抜けてしまった光が儚げで、少し悲しくなった。

夢中になり過ぎて、川の存在に気付かなかった。
「危ない!」
ギンの手に引っ張られて、やっと自分が川に近づき過ぎていた事に気付く。

「あぁ…。」
「まったく。ほんまおっかないわ。気ぃつけなあかんやろ。」
「ごめん…。」
怒られてしゅんとしてしまった乱菊にギンは頭を掻く。

その時、一匹の蛍が乱菊の頭に止まった。

それをそっと手に包むと、乱菊の前で広げて見せる。

「ほら、心配して蛍も寄ってきたで。」

光が二人の顔を優しく照らす。
乱菊の表情は明るく輝いていた。

「ごめんね、心配かけちゃって。」
蛍に語りかけると、可笑しくなって二人で笑った。

ギンの手から飛び立つ蛍を見送る。


しばらくの散策の後またあの岩に戻ってきた。


「なぁ。今からうちに来ぃひん?」
「…?」

いつもよりちょっと早い気がした。

「なんや寒くなってきた。」
確かに今の時期、夜は少し冷え込む。
名残惜しい気がしたが、いつまでもここに居るわけにはいかない。

「そうね…。」

もう一度振りかえってその美しさを目に焼き付けるように見つめる。
蛍は相変わらず、灯り、消えるを繰り返していた。


帰り道はかろうじて前が見える程度。
星がなんとか照らしてくれている。

夜目が効くギンに手を引かれながら、歩いてゆく。

「ありがと。今年も見れてよかったわ。」
「そうやね。」


お祭りが終わったような寂しさで、足取りもゆっくりになる。


ギンの部屋についた時には、結局遅くなっていた。

扉を開けると―


そこには今さっきまで見ていた光があった。

「わ…。」
言葉を失ってしまう。


「一度やってみたかったんよ、蚊帳の中に蛍ぎょうさん放すの。」

ギンに促されて蚊帳の中に入ると、乱菊の頭にまた蛍がとまった。

「なんや乱菊の髪、仲間やと勘違いしとるんとちゃう?」
クスクスと笑うギンの声も明るい。
これを見せたかったのか…。

「どう?頑張ったんやで、乱菊様の為に。」

「綺麗。凄く、凄く嬉しい…。」

感動で呆けていた乱菊は、我にかえると、
「けどこれ、ギンが1人で捕まえてきたの?網で?」
と聞いた。

その姿を思うとかなり可笑しい。


「…今めっちゃロマンチックなところなんやから、いらん事想像せんといて…。」


確かにロマンチックだ。
この上無いくらいに。

「ギン、ありがとう。」

蛍の光に照らされたその笑顔にギンは目を細める。

(本家より、こっちの蛍の方が綺麗やな。)
ギンは笑って輝く乱菊の髪にそっと口づけた。



蛍はコロコロと笑うように、瞬いていた。


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