不確かな事実
死神は死んだら消えて霊子になるんだっけ。
じゃああんたはこの世界に散らばってる訳?
集めたら、また戻ってくれないかな?
自分でもこんな女々しい考えをするんだな。と可笑しくなってしまう。
そもそもギンがこの空気や建物や植物を形成しているひとかけらになるなんて…柄じゃないわよ。
でも―
「せめてここに集まってきてくれたらな。」
何も入っていない見せ掛けの墓を前に、ひとりつぶやいた。
「お稲荷さんでも置いといたら、ほんとに集まってくるんじゃないかしら。」
乱菊は寂しげに笑う。
風が吹いて草木を揺らしているが、これがギンだなんて到底思えなかった。
「はぁーあーっ!!」
やになっちゃう。
まるで未亡人じゃない。
悲恋…だったのかな?
そもそも付き合ってもいないのに?
私はギンが確かに好きだった。
だけどギンはどうだったのか、
もう聞く事も出来ない。
なんで死んじゃうかなー。
私を置いていった事も、尸魂界を裏切った事もみんなみんな、問い詰めて、怒って、怒鳴って、殴ってやったのに。
それから、
好きだって言ってやったのに―。
まったく。
馬鹿みたい。
出会ってからずっと想い続けてきた人は、疑問しか残さずに消えてしまった。
せめて、どうしてこうなったのか、説明文書いてけよ馬鹿。
「ギン?私あんたの事、一生恨むからね。」
…あぁ。
そうすると、私の人生ってあんたを想ってばかりになるのね。
今までもこれからも…。
まったく。あんたってほんとうに幸せものだわ。こんな美女にこれだけ想われるなんて。
風が髪をさぁっと撫でていく。
いやらしいほど優しくて、いやでもギンを思い起こさせる。
「一生、一生忘れないから…。」
「気が向いたら私のとこ来てもいいわよ?でもお風呂は…覗かないでよ?」
ギンじゃないと思いながらも、せめて…。
せめてもの慰めに風に語りかける。
精一杯笑いながら。
「じゃあね!私行くわ!今度はお稲荷さん持ってきてあげる。あと干し柿も。」
たぶんまた泣くのだろう。
でも、ギンが言った、「泣かない世界」
あいつが出来なかったなら、私がしてやろう。
簡単だ。
笑えばいい。
だけどそれが一番難しい。
ギン、あたし頑張るから。
だから、
今はただ安らかに―。
私は瀞霊廷に足を向ける。
ギンかも知れない、そうじゃないかも知れない地面を踏みして。
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