変に乙女な時もある。



現世に行くというのは、結構面倒な事なのだ。

手続きをしたり、擬骸や現世の服を用意したり…。

でもその苦労以上の楽しさがある!

「ねぇ隊長〜。この服どう思います?」

執務室の私の机には、何冊もの雑誌が広がっている。
これは研究だ。

今度、久しぶりの現世出張がある。
流行りのファッションやメイクは刻一刻と変わっていくから予習は欠かせない。
絶対に遅れをとる訳にはいかないのだ。

「こういう時の熱を仕事に生かせねぇのか…」

もうこうなったら何をいっても無駄だということは日番谷隊長もやっと学んでくれたらしい。
最近は何も言われない。
ただそうやって呆れたような顔を向けるだけだ。
失礼よね。女にとっては一大事なのに。

「で、どう思います?」
「知らん。俺に聞くな…。現世の服の事ははよくわかんねぇよ」
「駄目ですね〜。急に現世で雛森にばったり会っちゃったらどうするんですか?変な格好でもしていたら、嫌われちゃいますよ〜?」
「なっ…!」

隊長ったら顔真っ赤。
可愛いなぁ〜まったく。

「そ、それにしてもだな!今回は随分と雑誌の量も多くないか…?いつもの倍近くあるぞ」
「そうですか〜?久しぶりですからね。気合いも入るってもんですよ」

…大丈夫だろうか。
バレていないよな。
上手く隠せた、と思う。


理由があるのだ。

今回、ギンが現世でデートに連れて行ってくれる事になっている。

現世デート…。
そんなの滅多に出来る事じゃない。

何度もしたいしたいとねだっていたら、ギンが私の出張に合わせて、自分も現世出張を入れてくれた。

もちろんでっち上げだ。
立派な職権乱用であるが、まぁ私の為だから、悪い気はしない。

それに私だって1日さば読むつもりだ。
任務に手間取ったと言えばごまかせるだろう。

ふふっ。

おっといけない。
思わずニヤけてしまった私を、隊長がまるで変なものを見るかのように眺めてる。

雑誌に集中せねば。

私はその日一日研究に没頭した。



デートの日、待ち合わせ場所にはギンが待っていた。

現世の服は細身のものが多い。
着物ではよく分からないが、ギンは細いが意外としっかりした体をしている。

うう…。
まったく心臓に悪いのよね。
たまにしか拝めないのに、ちゃんと見れないじゃない。

ギンはこちらに気付くと、
「ように似合うとるよ。」と目を細めた。

あれだけ前から準備したのだ、褒めてもらわねば困る。
「ほな行こか。」

あ…。その一言だけな訳ね。
まぁ褒め続けられても気持ち悪いけども。

しかしあんまり外で繋いだ事のない手を繋いてくれたからまぁいいか。



庭園を見に行った。
個人のお宅なのだけど、薔薇の咲く期間だけ開放しているのだ。
雑誌で見たとき、あまりの雰囲気の良さに一目惚れ。
きゅんときてしまったのだ。

アーチをくぐると、絵本に出てくるような可愛いレンガ造りお家があった。
イギリスのコテージをイメージしたのだそうだ。
広い庭はイングリッシュガーデンと言われる形式だが、変にとらわれず自由な遊び心がまた可愛い。

カシャッカシャッ

「なに、それ?」
「カメラ。くる前にコンビニで買ってきたの。記念に、ね」

薔薇の他にも色とりどりな花が咲いている。
写真や構造を考えながら歩くとよりわくわくしてしまう。

花たちの香りがふんわりと鼻孔をくすぐる。


広い庭を一通り散策すると、テラスでは、カモミールとレモングラスのハーブティーに、ローズマリーの乗ったクッキーまで出してくれた。
ちょっとしたカフェのようだ。

この庭を2人で切り盛りしているという老夫婦がまた素敵で、帰り際に、手作りの押し花のしおりまでくれた。

「これね、四つ葉のクローバーも入ってるの」

確かに花が折り重なるようになっている中、四つ葉のクローバーが一つだけ顔を出している。

「幸せになるようにね?でも…あなた達にはいらないみたいね」
お茶目に笑うおばあさんが可愛くて、こんな風に年をとりたいなぁ〜なんて思ったりした。

ギンを見ると、ちょっと赤くなっている。
私までにやけてしまうではないか。


それから、そのおばあさんに教えてもらった雑貨屋さんに行った。

そこは雑貨屋さんが多く並んでいて、宝箱をひっくり返したように、素敵なものがいっぱいあった。

欲しいものはたくさんあったけれど、見ているだけでもお腹いっぱい。
すごく幸せだ。
…でも結局はいっぱい買ってしまったのだけど。


最後に入ったお店が、猫のモチーフのものだけを置いているお店で、ギンがいたく気に入り、置物を大中小と3つも買った。

「ねぇ…それギンの部屋に飾るわけ?絶対似合わないわよ…。」
「何ゆうとんの、乱菊の部屋に決まっとるやろ。ええやろ?かわええし」

まぁね、いいけど。

でもあんたほんと猫好きね…。


近くの公園にも行った。
小さな自然公園、らしかった。
湖のほとりでのんびり過ごす。

尸魂界には、山や森はあれど、こんな風に整えられた自然はなかなか無い。
貴族の庭くらいだ。

ギンがアイスクリームを買ってきてくれた。
あと頼んでいたお菓子と飲み物。


湖のに映った、空と木々。
幻想的でとても綺麗だった。

パシャリこれも収める。


「へへへ〜。」
「それ、現像はどうするん?」
「今日頼んでく。近々女性死神協会の企画で現世に温泉旅行に行く事になってるの。その時にこっそり取ってくるわ。」
「ふ〜ん…。なんや楽しそうな事やってるんやねぇ。」
「羨ましいなら男性死神協会入れば?」
「……あの格好せいゆうの。」

私は盛大に吹き出してしまった。
「ギンが、グラサンで、あの服…あぁ、お腹いたい!」

笑いが収まらない私を見てギンはサッとカメラを奪い

カシャリ


「あぁー…。なにすんのよ。」
「こうする為に買ったんやろ?
な、お散歩しよ。写真撮ったる。」

ギンに促されるまま、私は立たされ、歩いていく。

カメラはひったくった。

咲いている花やキラキラ光る木漏れ日など、次々に写真に収める。

たまにギンに貸してやると、意外に真剣になっている。
可愛い。


「楽しそうやね。」
「楽しいわ。あんたは楽しく無いわけ?」
「楽しい。」

ふふ。
なんだかふつふつと可笑しさがこみあげてくる。

こういうの、幸せっていうんだろうなぁ。


「ねぇ、撮ってもらおうよ!」
「なに?」
「しゃしん!
ほら、あそこのおじさんに。」
「えっちょ…」
「すいませーん!!写真撮って頂けませんかー?」

せっかくの現世デートよ?
もったいないじゃない。
記念よ記念。

私がギンの元に戻ると、浮かない顔をしてやがる。

「撮りますよー。」
「ほら、ギン笑って。」
「分かっとるって。」

「あのー…もう少し目ぇ開けてもらってもいいですか?」
「大丈夫です!こいつもとがこういう顔なんで!」
「……。」

嫌なのかなと思っていたが、腰など抱いてぴったり寄ってきたから、顔を見上げると、そっぽを向かれてしまった。
可愛くて笑ってしまう。

「じゃあ撮りまーす。」

カシャリ

「もう一枚行きますねー。」
「なぁ、乱菊。」
「なに?」

  あいしとるよ

ぽかんとして、相当アホな顔をしていた気がする。

写真を撮ってくれたおじさんも、ちょっと笑っている。

くそ。
やられた。

だから…心臓に悪いんだ。
たまに、変にドキドキさせやがって。
むかつく。

「すんませんでした〜。ありがとうございます〜。」
なんて、しれっとカメラを貰って挨拶しに行っている。

戻ってきたギンの足をふんずけてやった。



日もだいぶ傾いて来た。

帰り道、小さな子供用の公園があったからちょっと休憩がてら寄ってみた。

なんだか公園ばかり行っているわね。

ブランコに並んで座る。

特に喋る事は無いけれど、夕日に照らされながら、ブランコの軋む音を聴いているのは、なんだか心地よい。

「ギン〜?」
「なに?」
「今日はありがとう。楽しかったわ。」
「ええよ。僕も1日乱菊を独占出来て幸せやったし。」

帰らなきゃ行けないのに、なんとなくどちらも動けない。
せっかくの1日が終わるのが、ちょっと勿体無い気がした。

「帰らなきゃね。」
「そうやね〜。」

少し肌寒くなってきている。

私は思いっきりブランコを漕ぐと、そのまま前に着地した。

「さて!じゃ帰ろっか!」

一応、別の出張で来ている事になっている。
帰りは一緒には行けない。

別に尸魂界に帰ってもすぐに会えるのにね。
なんだかとても寂しい。
きっと夕日のせいだわ。

ギンをパシャリ。
また撮ってやった。
貴重な現世の私服、及びブランコに座るギンという半端じゃなく珍妙な姿だ。
似合わない事この上ない。

ギンに私からキスをあげた。
これはお礼だ。


ギンは立ち上がり私の手をとると額にキスをした。
その手は名残惜しそうに離れる。

「じゃあね」
「うん」


私はギンを見送ると、コンビニに寄って現世を発った。

もう一番星が出ていた。


写真が返ってきてあの写真を確認する。
やはり間抜けな顔だ。

でも、
お財布にでも入れて持ち歩いてやるか。
「愛してる」って言ってくれた告白記念だものね。
なんだかとてもその一枚が愛おしくなって小さくキスをした。

はっとして
こんな乙女なの柄じゃない!と慌てて写真をしまった。






おまけ*



「隊長〜」
「なんだ」
「はい、これ。現世出張のお土産です」

男向けのファッション誌だ。

「なんだ…これは…」
「お洒落の勉強もしてくださいね(はぁと)」

すぐに逃げ出したが、執務室からは怒鳴り声が追いかけてきた。
「松本ぉ馬鹿にしてんのかああああっ!!」



一方執務室では―

「…………。」

日番谷は、そっと雑誌に手を伸ばすと、1ページ目をめくった。



隊長、女の子は不意にドキドキさせられるのが弱いんですよ?
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