@

「という事でだな、坂田。お前にはボンゴレの同盟ファミリーのパーティーに潜入して、麻薬取引の証拠を持ち帰って来るという任務を与える。これは九代目直々の依頼だ。夜の守護者として初の大仕事だぞ。あぁ勿論必要物資は全てこちらで揃えるから入用の物はリストアップしておけ。潜入は2日後だ。頑張れよ。」

その日、沢田綱吉の家庭教師であるリボーンが唐突に名前の元を訪れ、一つの任務を彼女に与えた。
日本に存在する小さな小さな同盟ファミリーのパーティーに潜入し、麻薬取引の証拠を掴み取ってくるという任務だ。
それはボンゴレ九代目直々の依頼で、ボンゴレに関係するものは当然拒否権など存在しない。その依頼を取り次ぐためリボーンは名前の元を訪れたの、だが。

『・・・・・・なぁクソガキ、なんで私がボンゴレの社員みたいに当然の如く任務が与えられるのかとか、「という事でだな」から始まったけどそれまでの経緯は一切話されていない事とか、色々と問いただしたい事はあるんだが、とりあえずこれだけ先に聞かせてくれ。』

「なんだ?というかお前俺の名前ちゃんと覚えてんのか?俺はクソガキじゃなくてリボ」

『その話今この場所、このタイミングじゃないと本当に駄目だったかね。』

そう静かにリボーンに問う名前。
そんなリボーンが見上げているのは、水沢家の脱衣所で今まさに入浴しようと着物を脱いで下着姿になり、ブラジャーのホックを外した瞬間の名前の姿だった。


◆◆

『あのなぁ、クソガキ。』

「お?」

夜19時に突然水沢家の脱衣所に姿を現し、淡々と九代目からの依頼書を読み上げたリボーン。
そんな彼の頭をガシリと掴んだ下着姿の名前は、風呂場に入ると窓を開けて外へと身を乗り出す。
そして彼を掴んでいる腕を大きく振り上げ、放物線を描くのではなく真下に向かって勢いよく叩き落とした。

『日本の家は土足厳禁だ。お靴を履いたままお家に上がる悪い子は外に放り出すぞ。』

「お前、今の放り出すなんてもんじゃなかったぞ。振り上げられて直下に叩き落とされた瞬間に俺の体に襲い掛かったGの重さが分かるか?笑い事じゃ済まされない程目玉が気圧に押し出されそうになったぞ。」

窓枠に腕を乗せて眉を顰める名前に対し、たった今とてつもないGの負荷に襲われたリボーンが、体半分が地中に埋まった状態でそう尋ねる。
地面に叩き付けられる直前に華麗に足から着地したリボーンだったが、あまりにも勢いが強すぎてそのまま地中にめり込んでしまったらしい。

しかし名前はそんなリボーンの言葉に『江戸の人間なんでGとかFとかよくわからん。』と適当に返事をして再び同じ質問を投げかけた。

『もう一度聞くぞ。依頼がどうのとかその面倒くさそうな話は、私が下着姿でポロリの危険がある今このタイミングじゃないと駄目だったかな?』

「いや、別にこのタイミングじゃなくても良かったな。単純に俺の小遣い稼ぎの物資の調達の為に脱衣所に潜入したんだが、丁度いいからついでに伝えておこうかなって感じだった。」

『ほう。なんだか薄々予想できるような、その予想が外れて欲しいような気もするがあえて聞こうじゃないか。その調達している物資とは一体なんだ?』

リボーンが名前が居る脱衣所に入ってきて調達する物資。
その言葉に名前の脳裏に様々な可能性が浮かぶが、それも名前にとっては宜しくないもので、更にその可能性のどれもが現実になりそうで自然と目が据わる。

そんな名前にリボーンはスーツのポケットから一本のボールペンを取り出して口を開いた。

「スクアーロとディーノに売りつける為の「自然な坂田の日常ブロマイド」の撮影の為だぞ。あいつら馬鹿だから隠し撮りしたお前のブロマイド1枚にとんでもない金出すんだ。相場は大体一枚2万ぐらいだな。さっきのブラのホックを外して下乳が零れた瞬間の写真は更に倍の高値で売れるぞ。
ちなみにこのボールペンはカモフラ系のペン型カメラでアマゾンで買ったんだ。」

『悲しいほど予想がドンピシャだった件。アンタは後で検閲入るから1時間後にうちの居間で首洗って待ってろよ。ペン型カメラは迷惑防止条例違反とプライバシーの侵害の為没収だ。』

「マジでか。」

名前は地中に埋まるリボーンをそのままに、据わった目でそう吐き捨てると風呂場の窓をピシャリと閉めてしっかりと鍵をかけた。

そしてきっかり1時間後・・・・ではなく1時間と15分過ぎた頃。
リボーンが待つ居間に姿を現した風呂上り姿の名前は、浴衣姿にタオルを首に巻かけたまま、ビールを片手にテーブルの前に腰を降ろした。

何故か食卓ではリボーンがナチュラルに夕飯を食べている。

「1時間後とか自分でほざいたくせに15分遅刻するとは相変わらずのルーズっぷりだな坂田。晩ご飯先に頂いてるぞ。」

『女の風呂に時間がかかるのは当たり前だろ。気の短い男はもてないよ。』

「そこで「ごめぇん、貴方の為に体ピカピカに磨いてたのぉ」とか言えれば女としての可愛げもあるんだがな。」

『ごめーん、美味しいビールの為に長湯して汗流してたのー。これで満足か。』

「・・・・もういい。」

リボーンは本日の夕飯のメイン鯖の味噌煮を食べながら。
そして名前もビールを飲みながら、相変わらず仲が良いとは言えない淡々とした嫌味の応酬をテーブルを挟んで繰り広げる。
すると台所からしゃもじを手にした水沢が顔を覗かせて名前に向かって口を開いた。

「あ、やっと上がりましたか。もう坂田ちゃんのご飯もよそっちゃっていいですか?」

『うん大丈夫ー。んで、なんの話だったっけ?じいさんと麻雀打って来る事しか覚えてないや。』

水沢に返事を返して再びリボーンに向き直った名前は、既に食卓に出されている枝豆に手を伸ばして尋ねる。
するとリボーンは呆れたようにため息をついて、スーツの懐に手を突っ込むと先程脱衣所で一度見せた九代目の依頼書を名前の前に置いた。

「誰がいつ麻雀の話をした。九代目の依頼でジャッポーネの極小同盟ファミリーのパーティに潜入して、麻薬取引の現場を押さえて証拠を持ち帰って来いと言ったんだ。適当な爺さんと麻雀打って帰って来たら殺すからな。」

『いや、むしろ何で私が爺さんの依頼を受ける方向になってんの?やらないよ馬鹿。なんで私?ボンゴレの中に女社員なんて腐る程いるでしょ?ていうか限りなく面倒くせぇよ。ボンゴレに絡まれるの本当面倒くさい。』

ボンゴレリング争奪戦以降、夜のリングの守護者となった名前の元に度々こうしてボンゴレ九代目から、という名目で依頼が入るようになったのはいつ頃からだったか。

名前は至極面倒くさそうに片目を細めて依頼書を一瞥すると、冷奴に鰹節を大量にかけながら「ボンゴレ内部の他の女に当たれ」と断る。

「ジャッポーネにいるボンゴレ社員の女は残念ながらお前しかいねぇ。つまりこのパーティに警戒されにくい頭軽そうな女として潜入できるのはお前しかいねぇんだよ。」

『じゃ社員からパートに格下げしていいよ。扶養の範囲内で頑張るんでよろしく。』

「ちなみに報酬は鹿児島産高級鰹節15ダースだ。今ならお中元のカルピスセットも付けるそうだぞ。」

『毎度あり。それでパーティドレスとか必要経費の領収書は何処に出せばいいの?好きなもんで買い揃えていいんだよね?経費全部そっち持ちでしょ?』

「報酬目の前にした瞬間のお前の切り替えの素早さはもはや賞賛に値するな。」

一寸の思慮もなくリボーンの依頼を無碍に断る名前だったが、突然彼の口から飛び出した「報酬」の内容に清々しい程コロリと態度を変えた。
その切り替えの速さはもしや最初から報酬を巻き上げる為の演技だったのではと、リボーンを賞賛させる程のものである。

しかし九代目の財力からすれば鰹節15ダースもお中元のカルピスもはした金のようなものだ。リボーンは名前がヤル気になっているうちに話をいっきに進めることにした。
そうでないともし時間を置いたら再び「なんか面倒くせぇよオイ」みたいな事を言い出す可能性があるからだ。

「え、坂田ちゃん珍しくあのお爺さんのお手伝いをされるんですか?」

すると今まで静かにテレビを見ながらご飯を食べていた水沢が、箸を止めて驚いたように名前とリボーンを交互に見やる。
彼は恐らく名前があのまま鉄壁のヤル気の無さで依頼を断るだろうと思っていたようだ。

『うん、鰹節とカルピスくれるみたいだからさ。ちょっとパーティでご飯食べてくる。』

「相変わらず鰹節が絡むとちょろいですね貴女。それとリボーン君、どうも坂田ちゃんはちょっと外食して来るぐらいのノリだけど大丈夫?」

「既に頭軽い女を演じてるのか。さすがは本職警察官だな。その意気だぞ坂田。」

「違うよリボーン君。これは人の話を聞いてるようで聞いていない通常運転の坂田ちゃんだよ。」

そうしてリボーンは見事ヤル気のない名前に九代目の依頼を受諾させると、2日後のパーティの詳細を伝える。
簡単にまとめると今回のパーティは表向きは主催者の息子の誕生パーティだが、実はその場で稀少な麻薬の取引が行われる事になっているらしい。
その麻薬を所持する密売人が来賓としてパーティに参加するので、その現場を押さえて欲しいとの事だ。

「ボンゴレ九代目は麻薬の取引を良しとしていねぇんだ。ボンゴレの同盟ファミリーは麻薬取引を禁止というのがルールだが、今回そのルール違反のファミリーがジャッポーネのこの弱小ファミリーだ。とっとと潰してぇところだが、証拠もなしに殲滅隊を送らせるわけにもいかねぇからな。お前には証拠写真を撮ってきてもらいてぇ。勿論一人ではとは言わないぞ。パーティだからな。ちゃんと同伴もつけてやる。」

『おっけー。要は麻薬取引現場の証拠写真を撮って爺さんにチクればいいわけね。簡単じゃん。で、場所は?』

「並盛プリンスホテルだぞ。同伴者とはホテルで合流だが部屋を一室取ってやるからそこで落ち合え。あとコレが招待状だが、お前に預けると果てしなく不安だから水沢に預けておく。頼んだぞ水沢。」

「うん、任せて。当日に坂田ちゃんに渡せばいいんだね。」

招待状を名前にではなく水沢に渡したリボーンは、食事を終えてパチンと箸を揃えて箸置きへと戻す。

「ご馳走様だぞ水沢。相変わらずお前料理うめぇよな。」

「お粗末さまです。お茶まで飲んでいくかい?」

「いや、今日はこのままお暇させてもらうぞ。じゃあ坂田、必要経費の領収書はまとめて俺に渡してくれたら後日清算するからな。ちゃんとドレスコードに合ったもんで揃えろよ。」

そう言うとリボーンは畳に置いていたボルサリーノを被ると座布団の上から立ち上がった。どうやらこのまま帰宅するらしい。
だが名前は鯖の骨をとっていた箸を持つ手をピタリと止めると、『ん』と彼に向かって空いている手を差し出す。

「なんだ?言っておくが経費は後払いだぞ。」

そんな名前にリボーンが首を傾げる。
すると名前はゴクリと口の中の物を嚥下し、己の胸元を指でチョイチョイと指しながら口を開いた。

『誰が経費を先払いしろなんて言った。さっき言った検閲はもう面倒くさいから勘弁してやる。だがペン型のカモフラ系カメラは没収だ。話を盛ってビアンキにチクられる前にさっさと出しな。』

「・・・・・・・。」

食卓について以降、カメラの件は全く話に出てこなかった為このままはけようとしていたリボーンだったが。
依頼内容の事は忘れてもカメラの事はしっかり覚えていた名前によって、リボーンのペン型カモフラ系カメラは無情にも没収されてしまった。
- 1 -
[*前へ] [#次へ]
リゼ