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最近何故か短刀ちゃんとか精神的に幼い打刀達が、やたらと本丸の屋根の上をかけまわる遊びをしてるんだけど、なにこれ流行ってんですかね?

そう思って審神者チャンネルで同志達に聞いてみたら、出るわ出るわ「うちも!」というコメント。どうやら政府が販売してるテレビ視聴カードのみで見られる「活撃刀剣なんちゃら」っていう番組の影響らしい。
どうも刀剣達の士気を上げるために政府がプロパガンダ目的に製作しているドラマ仕立ての番組で、その番組内では有能な審神者が刀剣男士達を率いて時間遡行軍と戦っているとの事だ。

なんでも審神者達の間でもかなり有名な番組らしく、審神者チャンネルの他のスレッドでも【最新話速報】みたいなスレが立ってたな。

けどうちは刀達がテレビッ子にならないようにテレビは置いてないから、その活撃なんちゃらを見た事ないんだけど・・・・・・じゃあなんでうちの子達は活撃ごっこしてるんだ!?


【もしもあの子が刀剣だったら/リクエスト番外編】

「え?前に僕がクックパット見る為に愛用してるタブレットで、陸奥守君達が何か見てたような気がするけど・・・・ごめん、何を見てたかまではわからないな。」

「そっかー。あ、ちょっとタブレット借りてもいい?」

「うん勿論。あ、今見てるページは消さないでね。」

我が本丸の中で外からの情報を得られるのは、私が使っているタブレットとパソコン、それと燭台切に与えたタブレットのみだ。
タブレットを使えば動画は見れるしね。どうせ活撃なんちゃらも放送の翌日には政府のHPとかで最新話1週間無料視聴とかしてんだろ。

そう思って私は本日のおやつを作っている燭台切の元を訪れ、伺いを立ててから厨房に置いてある彼のタブレットを手に取りネットの履歴を遡れば・・・・・あ、あった。1週間前に政府のHPにアクセスした履歴があった。私は履歴を辿って政府のサイトにアクセスすると、ちょっとだけその番組を視聴してみた。

結果。

「おもしろかった・・・・!予想以上に面白かった・・・・!」

予想以上に面白くて次週の放送が楽しみになった。
じゃなくて、なるほど!短刀ちゃん達が駆け回っていたのはこの動画を見て影響されたからなのか!
動画の中では刀剣達が江戸の町の屋根の上を身軽にピョンピョン飛んで駆け回っていたから、きっと短刀ちゃん達はコレを見て遊び始めたのだろう。

「主、何かわかったかい?」

「うん、だいぶ分かった。なるほどねー確かにコレ見たら俺も飛べるはず!ってなるわ。ありがとう、燭台切。」

「どういたしまして。」

私はタブレットを燭台切に返して厨房を出ると、さっそく自分のタブレットで今までの番組を見直そうと執務室へ戻ろうとしたんだけど・・・。

「べにざくら、おそいですよー!こっちです!」

『待って待っていまつる先輩!みて、バク転!』

「うわーすごいですね!ぼくもまけませんよー!」

なんだか凄く楽しそうにキャッキャしている今剣と坂田ちゃんの声が聞こえてきた。
頭上からは更に数名の足音が聞こえきたので、私は足を止めてそっと耳を澄ませる。

「名前ちゃん、あそこまで競争しようよっ!」

『了解です乱先輩!』

「俺も!機動なら負けないぜ!」

「わしも参加するぜよっ!機動はおまんらに負けちゅうけど、足の長さなら負けてないきに!」

これは・・・・乱と坂田ちゃんと厚と陸奥守か。
なんか陸奥守が一番はしゃいでる気がするけど、あいつもまだかなり若い刀剣の部類だしな。

「べ、紅桜。あまり飛び跳ねすぎると危ないですよ。」

「三日月さんに見られたらさぞや驚かれますね・・・・。」

それからしっかり者の前田と平野が、近くでオロオロと見守っているのが目に浮かぶわ。
屋根は頑丈だし陸奥守数人が暴れまわったとしても壊れるような物でもないけど、ちょっと羽目外し過ぎないように言っとこうかな。

そう思って屋根に上がるべくはしごを取りに納屋へ向かえば、白衣を着てめがね装備の薬研とすれ違った。

「お、どうした大将。納屋に何か取りに行くのか?俺でよかったら手伝うぜ。」

「ちょっとはしごを取りにね。ほら、チビちゃん達が最近屋根の上で遊んでるでしょ?今も陸奥守含めて遊んでるみたいだから、様子を見てみようかなぁって。」

ちゃっかり薬研の手を借りてはしごを持ち出した私は、活撃なんちゃらの影響で番組を見た子達がすっかり屋根の上での遊びにはまっている事を薬研に話す。
私の話を聞いた薬研は、苦笑いを浮かべてずり下がっためがねを押し上げて口を開いた。

「そりゃあ俺っちの兄弟が心配かけてすまねぇな大将。まぁ俺達短刀は屋根の上だろうが狭い場所だろうが、市中やなんやらで戦い慣れてるから心配はいらねぇが、名前嬢がそれに混ざっちまってるのが少し心配だな。」

「うん私も短刀ちゃん達は身軽だし大丈夫だと思ってるんだけど、陸奥守と坂田ちゃんがちょっと心配なのよね。ズルッと滑って落ちなきゃいいけど・・・・。」

私がはしごを立てかけながらそう言うと、薬研はそんな私の顔を見てニコリと笑った。ショタなのにイケメンずるい。

「安心しな大将。名前嬢も陸奥守も戦う為に顕現された刀剣なんだ。ちょっとやそっとの落下ぐらいで、受身も取れずに大怪我する事はまずない。これまで演錬で俺達の立ち回りをその目で見てきただろ?」

「うー・・・それもそうなんだけど。坂田ちゃんに至ってはあの子が怪我したら三日月とか保護者組への二次被害がね・・・・。」

「・・・・あぁ、確かにそりゃそうだ・・・三日月や小狐の旦那方は名前嬢が顔にちょっと切傷作っただけで顔を真っ青にしてるしな・・・・。」

そんな私と薬研の脳裏に蘇るのは坂田ちゃんがつい先日、戦場で派手にスライディングして転んで顔やら肘やら足やらにもの凄く痛そうな擦り傷を作ってきた時の事。

同じ部隊に入れていた小狐丸が血相を変えて抱っこした坂田ちゃんを連れて手入れ部屋に連れ込み、更に本丸待機だった三日月が怪我の程度を知るな否や、救急箱をひっくり返して包帯と消毒液を抱えて手入れ部屋に飛び込んできたのだ。

軽症だったから通常のポンポンですぐに治ったけどね。

「あれはちょっと過保護すぎだけどねぇ・・・私だって小さい頃はお転婆してたし、兄さん達に遊んでもらってテンションが上がる坂田ちゃんの気持ちも分からなくもないんだけどさ。」

「まぁ男所帯の俺達からすれば女子の顔に傷が付いたら血の気が引くもんさ。もちろん大将もだぜ?大将の顔に傷が付いたら手入れでは治せないからな。せいぜい気をつけてくれよ?」

そう言って私の頬を撫でる薬研イケメン。ショタのクセになんなのこの男気抱いてください。そうしているうちにはしごも掛け終わって、私は薬研にはしごを支えてもらいながら一歩一歩登る。

そしてヒョコリと屋根の上に顔を出せば、視界に広がったのは想像よりアクロバティックな遊びをしている刀剣達の姿だった。


『いっきますよー!!3回転トゥループ!!』

「うわーやりますねべにざくら!ならぼくは4回転です!」

「じゃあボクは5回転!」

「俺は6回転行くぜ!」

「名前、次は蜻蛉切ごっこじゃ!飛ばしてやるからこっち来ぃ!」

『ひゃっほい!いくよ陸奥守兄さん!』

なんか氷上のスケーターみたいに跳ねて空中でクルクル回る短刀ちゃん達と坂田ちゃん。
かと思えばバク転したりあの子達のバランス感覚って一体どうなってんの?

すると今度は子ども達に混じっていても全く違和感のない陸奥守が、坂田ちゃんを呼んでバレーのレシーブの体勢になる。
そして腰を落として飛んできた坂田ちゃんの足をレシーブの手に着地させ、そのままビュンと勢いをつけて飛ばした。

あれ知ってるぞ。前に燭台切が演錬で坂田ちゃんにやってたし。
坂田ちゃんが小柄だし体重が軽いから出来る技だよなアレって。

蜻蛉切ごっこってあんなふうにズギャンって飛んでいく遊びなの?なにそれ怖い。
相変わらず平野と前田がオロオロしながら見守ってるし。

顔だけをヒョコッと出して神々達のアクロバティックな遊びをぼんやり眺めていた私だったけど、ふと視界の端で先ほど陸奥守に飛ばされた坂田ちゃんが『あ、』という不安になるような声を出してフラフラし始めた。
どうやら着地に失敗したらしい。

待って、あの子屋根の端でフラフラしてるし!!めっちゃ危ない!!

「名前ちゃん危ないっ!」

「紅桜!受身を取りなさい!!」

「名前!!」

すると乱の悲鳴と平野の鋭い声がすぐ傍で聞こえたと同時に、私は急いではしごを降りる。私じゃ受け止めきれないかもしれないけど・・・・・!
しかし私がはしごを降り切る前に、ドサッと銀色が屋根から落ちてきた。

「坂田ちゃん!!」

「名前嬢!!」

「名前!無事か!?」

私と薬研、そして屋根から飛び降りてきた陸奥守が駆け寄ると、しりもちをついて地面に座り込んでいる坂田ちゃんが、びっくりした表情で私達を見上げた。

『び、びっくりした・・・・・。』

「びっくりしたのは私達のほうだよ。良かったーちゃんと着地できて。」

どうやら一度両足で着地できたが衝撃が大きかったために後ろに倒れこんでしまったらしい。坂田ちゃんの掌は地面で擦ったのかズルリと擦り剥けていた。
私は急いでハンカチを取り出すと、坂田ちゃんの手を取って土を払う。

『ご、ごめんご主人。びっくりさせちゃって。』

「遊ぶのはいいけどほどほどにね?あんまり怪我ばっかりしてると三日月にお外遊び禁止されちゃうかもしれないよ?」

『うっ・・・それは勘弁。以後気をつけます。』

土を払い終えた私が坂田ちゃんの頭に優しくチョップを落して保護者をちらつかせると、坂田ちゃんは途端に反省のポーズをして両手を上げる。
あんまり怪我が多いと三日月は本当に坂田ちゃんのお外遊びを禁止しそうで笑えないからね。

「大将、後は俺っちが手当てするから大丈夫だ。その代わりちょっくら弟達に灸を据えてやっちゃくれねぇか?」

すると薬研がズボンに下げているポシェットから包帯やら消毒液を取り出しながら、私にそう言って親指で屋根の方を指す。
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リゼ