封印の記録
『昔、アルカの地に“魔物”が棲んでいた』

 ある森の奥深く、それはそれは恐ろしく闇に包まれた森の底。怪鳥の不気味な鳴き声と羽ばたきが聞こえるこの森には“魔物”が棲んでいる。
 噂ばかりの話だが、彼の姿は世にも恐ろしく、見ただけで身の毛が弥立ち、彼の城に足を踏み込めば魂を取られてしまと言うのだ。
 そんな魔物城付近に小さな村があった。魔物の棲む森に比べ明媚で明るく長閑で、両者は正に明晦の様な存在だった。
 人口が少ないその村には一人だけ亜人間の子供が住んでいた。翠玉色の美しい髪に透き通った青玄の様な瞳、そして空に昇る温かい太陽の様な笑顔を持つ少女。普通の人間より耳が尖っていて子供達の中では特に物静かであり、決定的な違いと言えば幼い頃から魔術が使える事だ。
 そんな彼女が何時もの様に友達同士が遊んでいるのを木陰から眺めている昼下がりの時だった。町の入口に青いバンダナを頭に巻いた商人らしき男が立っていた。
 本当に小さな村なので、子供達は直ぐに次々と彼の側に集まって興味深そうに身形や荷物を観察した。男は子供の扱いに慣れているらしく、重そうな荷を抱えてるにも関わらず気前良く話を交わしていた。軈て村長が彼を出迎えて来て軽く会釈を済ませると、宿屋の方に案内していった。
 その時、商人の男が持っていた本を見て彼女は何故か寒気を感じた。


「アンタの村の近くに“魔物”が棲んでるって噂じゃないか」

 宿屋を後にした商人は村長の家にやって来てはこう言った。

「こんな事じゃおちおち外にも出られなくて不便だろう。…そこでだ!」

 男は手にしていた紅い一冊の本をテーブルの上に音を立てて置いた。

「この本はな、魂を封印できる凄い本なんだ。使い方は簡単、開くだけ」

 どうやら商売を持ち掛けているらしい。
 本が気になった彼女は裏庭に隠れて中の様子を窺っていた。成程、先程異様な気配を感じたのはその為か。本自体に魔力が宿っているようだ。

「確かに、子供達には村の外に出てはいけないと言い聞かせてありますが…」

「だ・か・ら、この本を使って魔物を退治しようって言ってるんだよ。遊び盛りの子供にとっちゃ外出禁止なんて窮屈だ。…どうだい、悪くない話だろう?今なら安くしとくよ〜」

 村長は半信半疑な様子でその不思議な本を買い取り、男は機嫌良く宿へ帰って行った。
- 1 -
戻る
リゼ