伏見目線

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「八田ちゃん、生クリーム買うてきて」

は?……んーで美咲に買い物頼んでんだよ。美咲は今俺と遊んでんだよ。いくら草薙さんでも……邪魔してんじゃねぇよ。

「こちらんお客さん、来はる度に いっっっっつも甘味ん入ったゲテモノカクテル俺に作らせて苛めるんや。今度は牛乳と泡立った生クリーム仰山入れたカウボーイ飲みたいとか言い出したけど、えんばんと牛乳と生クリーム切らしいやてな。悪いやけどスー パー行ってこうてきてやって」

「悪いわね。どうしても今飲みたいの」

……元凶副長かよ。つーか生クリームとか要らねぇだろ。大体あんたこの前会議中にもこっそり大福食ってたよな、俺知ってんだけど。んな事はどうでも良い。誰だろうが知らねーけど美咲と遊んでる時間を邪魔しないでくんない?マジ頼むから。


「わっかりました。牛乳と生クリームっスよね?」

お前も何で素直に引き受けてんだよ美咲ぃ。お前牛乳嫌いなんだろ!? そこは「えー俺牛乳嫌いなんでー」とか言って断れよ。

「……不本意そうね、伏見君」
「いや別に。何がっスか?」

副長が鬼の首獲ったみたいな顔して俺見てるし。何か言いたげに。んだよ、何か文句あんのかよ。

「じゃあ伏見君にもお願いしたいわ。彼と一緒に行って、南瓜餡……買ってきてくれる?」
「嫌です」

南瓜と餡ってどんなコラボだよ。合ってねぇし上手くねぇんだよ。野菜とアンコ合わせるとか常人が考えるこっちゃねぇだろ。そんな異常な食い物の為に美咲との時間を潰すつもりは更々ない。つーか南瓜がもううぜぇ。


「じゃあ八田ちゃん、ついでに南瓜餡も買うてきて?」
「りょーかいっス」


美咲何お前素直に返事してんだよ。行く気満々じゃねぇかよ!!


「さるー?一緒に行ってくればええやん。お前ものっそい顔しとんの、自分で分かっとる?」
「ここ空気悪いからじゃないですか。みんなで禁煙した方が健康と財布の為に良いでしょ」

草薙さんに悪態をついて踵を返した。


勿論美咲の後を追いかけて。


「っんでお前まで着いてくんだよ!?」

うるせぇ黙れ。

「副長命令だからしょーがねーだろ。それよりお前は牛乳買って来れるのか?お前が嫌いな、牛・乳」

いや副長命令なんて出てないけど。

「バカにしてんじゃねぇ!!飲むのが苦手なだけで、パックに触るぐらいなら全然平気だっつーの!!」

牛乳に、南瓜餡ね……。

「……お前、気づいてんのか?」
「は?何を?」

鈍感馬鹿が。

「なんで態々俺達が苦手なもんを、草薙さんと副長が買いに行かせたと思う?」
「知らね。人手が足りなかったからじゃねぇのかよ」

ちっげぇよ馬鹿。

「あの二人、俺らをダシにして遊んでんだよ。大方俺とお前がまともにパシリなんざできるわきゃないとか何とか?そんなとこで賭けでもしてんじゃねーの?」


薄ら笑いを浮かべた副長。ニヤニヤしてた草薙さん。


だとすればしおらしく二人の想定内で動くのはムカつくな。

「俺はそんなんどうだっていい。頼まれた事はきっちりやり通すだけだ」

この単細胞が。






「南瓜餡…は、こちらになります」
「は、あのっ…。あざす…」

南瓜餡なんかどのコーナーにあるか分からないから、菓子材料売り場までバイトの女に案内させた。

美咲お前、女の前でそんだけキョドるとかマジで童貞ですっつってるよーなもんだって。ホント、免疫ねーのな。顔赤いのどうにかしろ。ついでに目の前の女さっさと消えろ。


「おい猿!!南瓜餡頼まれたのテメーじゃねぇかよ。なんで三歩後ろついて歩いてんだテメーはよ!!」
「……うるせー馬鹿。童貞」
「かんっけーねぇだろ!大体テメーは……」


キャンキャンキャンキャン吠えてんじゃねぇよ。つかチワワみたいで可愛いとは思うけど。チワワか。小せぇな。美咲にそっくりだ。


に、しても。……あー面白くねぇ。

副長と草薙さんにただ踊らされてる、この状況が気に入らねぇ。

「……今日は満月か……」

道理で夜道が明るいと思った。

「てめっ猿!!聞いてんのか!?」

お前の戯言なんか聞いてねぇよ黙って俺だけ見てろお前は。

「あ……。良いこと考えた」
「あ?何を?」

副長と草薙さん。どっちにするかな。

やっぱ草薙さんだとマジだった時、シャレになんないからここは副長にしよう。草薙さん相手だと美咲が食われるかも知んねーし。


「……店に帰ったらお前、うちの副長に『今日は満月が綺麗ですね』っつってみろよ。あの人そーいう乙女なとこあるから」

嘘だけど。永久凍土の女だけど。

「なんでお前の言うこと…!」
「たまには女に免疫つけとけよ」


さーて副長はどんな反応すんのかな。









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