草薙目線

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……どないなっとんねん。


……どこのどなたさんが、コイツらに、この店に『来てええよ』言わはったん? て俺か?



いやいやいや、俺が来てもええと思てたんは(本来なら願い下げやけど)、ツンドラの女こと高飛車女だけのはずやったやろ。


それなのに何?何で!青服御一行様が!俺が愛してやまないイギリス直送のバーカウンターで寛いでいらっしゃる訳ですか?嫌がらせですか?

溜め息をつく俺の目の前には、宗像・淡島を筆頭にセプター4の幹部と実動隊の面々がカウンターやテーブル席に座ってはる。どう見てもリラックスしているのは宗像・淡島・伏見の三人だけで、あとは緊張を解かないものが殆どや。

それを迎える吠舞羅の面々も、相手方をぶん殴る機会を虎視眈々と狙っとんのやけど。


……だからなんでこうなった?誰か説明してーな……。


「……master、私にアイリッシュ・ウィスキーを。銘柄は任せよう」

なんやその上から目線。しかも発音無駄にええし!!高い酒か!この店で一番高いウィスキー出しゃええんか満足するんか!流石青の王様や、ジリジリと嫌味なオーラが滲み出てきとるわ。



こんな雰囲気で慰労会なんかあり得ひんやろ。せめて世理ちゃんが和ましてやりーな…。

って!

珍しく俺にフツーのソルティドッグ作らせた思とったら、持参した白餡ぶちこみおった!! アホかこの女!!


「……フッ…。グレープフルーツの酸味の中にある苦味と塩味…。それに舌の上で蕩けるような、さらした白餡の上品な甘味がよく調和できているわ…」



調 和 な ん か 出 来 と ら ん !!!


どこがや!どこ見て調和言うとんねん。


そのカクテルも今この店の中も、不調和で溢れとるわ!


うちのチームと青のクラン、今まさにこのくそ狭い店の中で一触即発の状態つーのが目に入らんか!?そのゲテモノカクテル入ったグラス洗う俺がどないな思いするか、アンタに分かるか!?


「……昨年の忘年会……」

「は?」

唐突に話し出したツンドラ女を振り返ってみれば、真剣な顔して俺を見上げてきた。

「宗像室長主催の昨年の忘年会に、参加したのが伏見君ただ一人だけ。危惧した私は慰労会という名の元に、今日はあなたたち赤のクランの敵情視察を敢行することにしたの」

「……それはつまり」

「ええ。セプター4の上司と部下の関係を解き放ち、無礼講になる席をここに設けるようセッティングしたのは私。だから皆にどんどん飲ませてやって頂戴」


単におたくの王様に人望が無いだけの話やないか、アホくさ。しかも、【吠舞羅の敵情視察】つー名目で、さりげなく飲み会に参加するよう仕向けとるやん。強制やん。飲み会つーただのパワハラやろ。

青のクラン終わったんちゃうか?


……だけど疑問やな。


「世理ちゃん、あの猿が、ようそない面倒な集まりに参加したな?不思議やわ」

いつもなら猿はそんなもん、真っ先に逃げてそうなもんやろに。

意味ありげに俺を見た世理ちゃんは、真っ直ぐ店内の一点を指差した。

「会場になったその居酒屋で、彼がバイトしていたらしいわね」

真っ直ぐに差した指の先には、八田の姿。


「……なぁ」「……ねぇ」

なんや俺と世理ちゃん、台詞が被ってもうたわ。

「あなたからどうぞ?」

ああ、うん、と前置きして俺から話を続けた。

「奴さん、青の組織ん中ではどないな感じや?間違うても素直なヤツじゃないことだけは分かっとるけどな」

くい、と猿の方を顎で差して世理ちゃんの答えを待った。

「……奇遇ね。私もそれを聞こうと思ってたの。伏見君は……そうね、何に対しても熱くなるタイプではないわ。仕事においても人間関係においても、ね」

なるほどな。吠舞羅におる時と大して変わらへんな。……ただ一つの事を除いて、やけどな。


「ウチにおる時もそない感じや。やけど一つ… いや、一人にだけは、やたら執着しいやたやけどなぁ……」

「……なるほどね」

俺と世理ちゃん、二人が同じ方を見た。視線の先には、じゃれあう八田ちゃんと伏見。……なんやろな。なんかこうあの二人使て遊んでみたい気ぃもするな。


「……ねぇ、あなた今、何考えてる?」

白餡入りソルティドッグを飲み干しながら、世理ちゃんが呟いた。

「せやなぁ…。なんかおもろい賭けでもしいひん?世理ちゃんも、どぉ?」

極上に見えそうな笑顔でツンドラに答えた。

「賭け…ねぇ。私は次に飲むつもりのウォッカ・ギブソンに合いそうな甘味を考えてたわ。……南瓜餡……なんて良いと思わない?」

「知るか!!!!」

空気読めや高飛車女!!何で今までの流れから甘味の話になるんや。南瓜餡どっから出てきた!?

「いやぁね、赤のクランの特攻隊長と、青のクランの特攻隊長。どちらが使えるか、試してみたいと言いたいのよ。名付けて『はじめてのおつかい大作戦』よ?」

「つまり?八田と伏見に買い物に行かせて、ちゃんと命令遂行して帰ってくるか帰って来いひんか。そいつを賭けようっちゅーこっちゃな?」

「ご名答。私はおたくの特攻隊長にこれ」

「おかしいやろ!自分の部下に普通賭けへんか?どんだけ信用しとらんのや」

財布から切れ味良さげな新札の1万円を出して世理ちゃんが薄く笑う。

「あなたは?まさか伏見君…にお使いが務まるとでも?」


うわあ言い切りよった。信用度ゼロやな。


「……俺は二人とも帰って来ん方にバランタインの20年モノ1本や。金欠さかいそれで堪忍して」


ニヤリと笑ったツンドラ高飛車女は猿を呼びつけた。俺も八田ちゃん呼ばんとな。








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