一周年記念小話であります。
子どもの頃に番長と陽介は出逢ってたんだよ……みたいな、過去捏造話し。







 放課後の帰り道。吹き抜けた冷たい風に、陽介は体を震わせた。

「うひー。さみー」
「確かに、今日は特に寒いな」

 陽介の隣に立っていた飛鳥が、はぁ……と真っ白い息を吐いた。それを見た陽介が、何かを思い出したのか笑った。

「どうした?」
「ガキん頃さ、息が白くなるのが面白くて、よく、そうやって、はーはーやってたなってさ」

 言いながら、陽介は白い息をはーと吐いて見せた。

「あはは。何か想像できるな」
「どーせ、馬鹿ガキでしたよ」
「そう言う意味じゃないよ。そうやって、何でもない事を楽しめるのって凄い事なんだぞ? 俺なんて、息が白くなるとただ寒くなったんだなぁ……って思うくらいで、そんな事、見付けられない。花村は昔から花村なんだな」

 フワッと微笑んだ飛鳥に「誉めてんのか?」と返しながら、陽介も笑って見せる。

「誉めてるよ」
「ホントかよ」
「本当だよ」

 白い息を吐きながら、ふふっと笑った飛鳥の横顔を見て、陽介は不意に、前にもこんな事があった気がした。あれはいつだっただろうか? まだ、小学生の頃だったような気がする。





 冬の駅のベンチで陽介は両親を待っていた。
 不意に隣に誰かが座る。横を見れば、陽介と同じ年の頃の子どもが座っていた。首に巻いたマフラーが顔の下部分を隠してしまっていて、顔ははっきりと解らないが可愛いと思った。
 陽介の視線に相手が顔を陽介に向け目が合った。その綺麗な銀灰色に思わず見いってしまった。

「何?」
「えっ!?」

 出て来た声は女の子の声とは明らかに違って、相手が自分と同じ性なのだと理解した。したのだが、もう、そんな事はどうでも良い事に思えた。

「あ、ご、ごめん」
「ううん」

 顔を赤らめた陽介が不思議だったのだろう、彼は小首を傾げて見せる。その仕草がまた愛らしくて陽介は更に顔を赤くする。
 クラスで一番可愛い女子なんかより、ずっと何倍も何百倍も可愛いと思った。

「はぁ。寒いね」
「えっ!? あ、うん。寒い」

 彼から言葉をかけてもらえて、嬉しくて堪らない。寒いのに顔が熱いような気がする。
 はぁ……と、彼が息を吐くと、白くなって空に溶けて消える。

「息が白くなんのってさ、な、何か面白いよな」

 何とか彼と話しを続けたくて、そんな事を言ってみれば、彼はキョトンとした表情を陽介に向けた。

「息が白いのが?」
「あっ、えっと、うん……」

 自分が話題を失敗したのは解ったが、だからと言って巻き返しができるテクニックなど持ち合わせていない。陽介はそのまま、この話題で突き進む事を決め、ほら……と、息を吐いて見せる。

「何か面白くね?」

 彼が小さく笑って、陽介と同じように息を吐いた。

「そんなの、考えた事なかった」
「そ、そっか……」
「ふふっ。凄いね」
「え?」
「君、凄いね」
「俺が……凄い?」
「こんなの、俺には見付けられない……」

 柔らかい微笑みが、ゆっくりと陽介から逸らされて、綺麗な横顔になる。その横顔がはーと白い息を吐く。それに合わせて陽介も白い息を吐いた。
 ただ、そんな事が二人だけの特別な事な気がした。
 到着した電車から、陽介の両親が降りて来るのが見える。

「陽介っ。迎えに来てくれたの?」

 嬉しそうな顔で近付いて来る母親に気を取られている間に、彼もまた母親に呼ばれたらしくベンチから腰を上げた。

「あっ……」

 両親が降りて来た電車に、彼が乗り込むのが見える。彼が小さく手を振ってくれているのが見えて、陽介も慌てて手を振って、陽介の口から吐き出される白い息だけが残された。




 花村? と呼ばれて陽介が顔を上げれば、飛鳥が陽介の顔を覗き込んでいる。

「どうした? 急に考え込んで」
「あっ、いや、ワリー」
「良いけど。あー、でも、こんな所で花村と凍死なんて嫌だぞ?」
「俺だってやだよ」
「ふふっ。そうだな。ほら、早く家に行って温かいモノでも飲もう」

 飛鳥の差し出した手を陽介が握り、二人は白い息を吐きながら歩き出す。
 あれが飛鳥だったのかは解らないが、今度は俺の息だけが残されずに済んだな……と、陽介は飛鳥の綺麗な横顔を見ながら思った。

終わり





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