オマケ


『受け組が悪者に襲われそうになっているところを発見した攻め組の反応』
















「あれから、みんなが過保護になって困ってます」

 またも三連休の休み。黒子達は渋る彼氏達を説き伏せ、自分達だけで集まって話していた。
 それというのも、6人にはある共通する悩みがあったからだ。

『過保護』

 これに尽きるのである。






「桜井はなんだっけ?一回別の学校の男に囲まれてたら、青峰が『俺のもんになんか用か』ってすごんでケンカ寸前になったんだっけ?」
「は、はい」

 別にそんなセリフは言ってませんけど…と桜井は小さく付け加えていたが、絶対似たような言葉を言っていただろうから間違ってないはず、と聞いた高尾も他の4人も思った。

「最近、僕がちょっと誰かと話してても、青峰さんがすぐに来るんです」

 困ったように話す桜井だが、聞いている他の者からすれば今更な話である。
 実は青峰の行動は今までと変わっておらず、受け取る桜井の心境が変わっただけなのだろう。強くなる、と宣言したらしいし。
 だがそのせいで青峰の行動を少々鬱陶しく感じ始めたらしい。周りからすればベタベタと行きすぎに見えていたから、これでようやく普通の距離感でいてくれるのかと内心ホッとしていた。
 いやもう、会う度ベタベタイチャイチャされたら見てるほうとしては、こう…

「青峰くん、寂しくなっちゃってるでしょうね。泣いてないですかね」

 ボソッと呟いた黒子に、桜井以外の聞こえていた全員がブハッ!と吹き出した。










「そういえば笠松さん、またストーカー出たんじゃないんですか?」
「黄瀬から聞いたのか?」
「いえ、火神くん経由で」

 どこまで話してんだアイツは、と笠松は顔をしかめる。

「ストーカーなんて大袈裟なもんじゃねぇよ」
「あれ?でも俺も赤司経由で聞いたけど、なんか黄瀬が裏から仕留めたって…」
「仕留めた?ああ、そういや最近コンビニ来なくなったな」

 なるほどなー、でも本気でどこまで言ってんだアイツは。
 ちょっと怒り顔になった笠松を余所に、残り5人はひそひそと顔を見合わせた。

「引っ掛かるとこはそこじゃないと思うんだけどね」

 氷室の言葉に全員がうんうん、と頷いていた。










「そういえば降旗くん、また危ない目にあったって聞いたけど」
「あ、なんか信号で誰かと当たっちゃって。でも違う誰かが腕を引いてくれて、大丈夫でした」

 良かったね、はい。とほのぼのな二人だが、反対側では黒子がまたもボソッと言った一言に、ちょっと空気が冷たくなっていた。

「その次の日から、元赤司くんファンクラブの一人が学校に来なくなってるんですよね」
「「「………」」」

 まさか、と声が上がるが誰も否定しない。
 つまりは降旗に赤司の息がかかったボディーガードが…!?と、高尾達はつい辺りをキョロキョロと見てしまうのだった。










「あれから氷室は肩どうなんだ?」

 空気を変えるように笠松が聞くと、氷室は笑って腕を回した。

「この通り大丈夫ですよ。動けなかった間は敦がたくさん協力してくれましたし」

 そういうわりには困ったような笑みになっている。何かあったんですか?と桜井が聞くと。

「一年生部員をね、俺に寄せ付けなくなってるんだ。指導も練習も見させてくれなくて」

 ああ、とみんな納得する。氷室の怪我の一因は一年生部員の一人にあると聞いた。紫原からすれば、氷室になつく姿も許せないと私情も多分に含まれているのだろうが。
 しかし氷室は三年生で責任ある立場でもあるのだ。困ったよ、とため息をつく隣で、しかし降旗がブンブンと首を振っていた。
 氷室が桜井と話している隙に、こそこそと話す。

「赤司から聞いたけど、紫原のファンクラブまだ諦めてない奴がいるんだって。で、彼女達を好きな男子部員がいて、それを紫原が氷室に近づけないようにしてるんだって」
「氷室さんに言えばいいんじゃねぇの?」

 高尾の意見も最もだと黒子や笠松も思うのだが、降旗はまたも首を振った。

「言ってもバスケ部員なら教えるのが当たり前だろう?持ち込まないようにさせるよって聞かないんだって」
「そりゃ…ヘタに近づけてまた怪我させられるかもって危険があるくらいなら、もう言わずにまとめて近づけたくなくなるわな」

 こくこく。笠松のわかりやすい言葉に、4人は今日何度目かの納得をした。










「高尾くんと緑間くんはどうですか?」
「あー…」

 黒子が聞けばなぜかあさっての方を向く高尾に、全員が首を傾げる。

「何かあったんですか」
「いや、真ちゃんとは別にいつも通りなんだけど、学校が」
「学校?」

 心配そうに問いかけると言葉を濁すように答えるが、それではますます気になって仕方がない。
 高尾は実は、と口を開いた。

「上川のシンパが意外に多くて、俺すっげぇ狙われてて」

 シンパ?とみんな目を丸くする。それにはぁ、とため息をついて高尾は続けた。

「うちでは上川って生徒会長してて、ちょっとしたカリスマだったから。しかも真ちゃんのファンクラブまで味方につけてたから、俺のせいで傷心の旅に出たんだとか言われて責められまくってて」
「なんだそりゃ。緑間はどうしてんだ?」

 そうだ、と笠松の疑問に黒子達も頷くが、なぜか高尾はもっと困った表情になる。

「それが、真ちゃんがストレートに『高尾に手を出せば許さん』とか言っちゃったから、やっぱ俺のせいじゃんって確信してますますエスカレートしちゃったんスよ。それなのに真ちゃんは心配だからってベッタリ傍にいてくれるから、やり方がどんどん陰険になっていって」
「あちゃー…」

 降旗が頬をひくつかせながら言ったが、誰もが同じ心境だった。基本的に回りくどい事が出来ないタイプだよな、と頷く。

「だ、大丈夫なんですか」
「ああ、それは大丈夫。うるさいのは生徒の一部だし、俺らの味方してくれる奴もいっぱいいるから」

 高尾は桜井にニッと笑った後、急に影を落として「でもやることほんと陰険でさー…女って怖い」と呟く背中を、黒子がよしよしと撫でていた。










「そういや黒子はどうなんだよ?」
「あ、」

 ちょっと立ち直ったらしい高尾が聞くと、なぜか降旗がついといった感じで止める。それに黒子が微笑み、二人の間だけで交わされるものに他の4人は首を捻った。

「何かあるのかい?」
「いえ。僕は平穏無事ですよ。ああ、でも一つありましたね」

 どうも僕にもストーカーさんがいたみたいで。
 あっさりと言う黒子に、笠松達だけでなく降旗までが驚いた。

「ちょ、黒子!?俺もそれ聞いてないけど!?」

 そんな事を知れば、ただでさえ過保護になった先輩達が!と黒子の体の事を知らないみんなの前では話せない降旗が焦る。

「火神くんの話だと、なんでも試合を見て僕の影の薄さに憧れてテクニックを盗みたい他校のバスケ部員から、ずーっと観察されてたみたいで」

 なにそれ怖い。
 ずーっと観察って。思わず全員がゾッとした。

「それ、どこの部員?」
「柵原高校だったそうです」

 またあそこかよ!と聞いた高尾が叫ぶ。結局始まりに戻った気になって、みんな嫌ーな顔をした。

「そのストーカーはタイガが払ってくれたのかい?」
「はい。払うというか、摘まんでポイして言い聞かせてましたね」
「言い聞かせる、」

 なんだか火神にしては穏やかじゃないか?と誰もが思ったが。

「最後泣き叫んでましたよ。火神くん、冷静に諭すのもやれば出来るんだなと思いました」

 …それは。諭すというより脅したのではないだろうか。
 凄めば青峰と並んで、そこらのヤクザ真っ青な迫力を持つ火神である。きっと丁重に力業も含めた言い聞かせが行われたのだろう。
 黒子以外の5人は、見知らぬ柵原部員の為に思わず心の中で手を合わせていたのだった。


(完)


 結論。火神と緑間と青峰と紫原はストレートに排除するタイプ。
 黄瀬と赤司は裏から手を回すタイプということ。


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