「そっちどうだったっスか?」
「やっぱ見つからねぇ」

 最近だけでなく、中学時代に共に過ごしていたキセキ達の意見を聞いて、火神達は黒子が立ち寄りそうな範囲を一通り探していく。
 火神と赤司の半々にチームにわけ、赤司チームは思い付く限りで降旗を探していた。

 火神の知らない書店、知らないコンビニ、知らない公園。赤司の知らないゲームセンター、知らないCDショップ、知らないレンタルショップ。
 上川が言ったのが虚言だという可能性を考えていろいろ見て回り、もう一度家にも電話してみた。
 しかし黒子の母親から確認できたのは、黒子が火神の家に泊まると言っていたという事。これは予想して黄瀬が電話をしたので、余計な心配はかけずにすんだ。
 そして降旗の家には火神がかけてみると、母親はまだ帰っていないとだけ答える。つまり降旗は何も親には連絡を取っていないということがわかって、少し時間をおいて赤司が電話をして赤司家に泊まることになったと説明した。

「…おい、赤司。お前いつの間にフリの親と仲良くなってんだよ」

 赤司と降旗の母親との会話がやけにフレンドリーに聞こえて、こんな時ではあるがつい火神がツッコむ。

「何度かご挨拶させてもらっているからね」
『………』

 ふふん、と聞こえそうなくらい誇らしげな笑み。
 行動はやっ!全員の思いは一致した。





「それより、これからどうすんだ?」

 年長者の笠松が、脱線しかけた空気を引き戻す。途端に全員険しい顔に戻ったが、打つ手の無さに歯噛みした。すでに時間は8時を過ぎている。

「緑間、その上川ってやつ何も他に言ってなかったのか?」
「ああ、特には…ただ探せと言っただけなのだよ」

 全くヒントもない状態で探せとは、無茶苦茶だろと青峰も苦い顔付きになる。
 何かずっと考え込んでいる様子の赤司に、紫原が身を屈めた。

「赤ちん、何か思い付いたー?」
「いや…本当に人を二人も隠すとしたらよほどの事だ。まして光樹とテツヤが抵抗しない訳がない」
「どういう事っスか?」

「もしも二人を隠すとしたなら…二人がいて不自然でなく、人目がつかない場所じゃないかと思う。そして、隠された場所を知っているのはやはり隠した人間だけだろう」


























 * *


「いい感じになってきたじゃん?」
「……」

 また様子を見にきたという三上を黒子は見上げた。その頬は時間が経つと共に薄く腫れ、懐中電灯の灯りで唇が裂けて血がにじんでいる事に気付く。

「わー痛そー」

 わざとらしく言いながら顔を近付けるが、それでも変わらない瞳に舌打ちした。
 暴力をふるっても、怒鳴っても、水色の瞳は鏡のように揺らぎ一つたてない。腹が立った。己は女に脅され、めんどくさい見張りの役などやらされて。
 こんな細っこい、女顔の気の弱そうな奴らなんか、ちょっとつついてやれば泣いてすがるかと思ったのに。
 それで少し溜飲を晴らしてやろうとしていたのだが、計算違いにまた苛立つ。

 端からみれば異常なくらい、三上は狂ったような目で黒子をねめつけていた。
 直接見られているわけではない降旗さえ、何をされるのかわからない予感を感じて体が勝手に引いてしまう。なのにまるで動じていない黒子は、降旗の目にも狂気を煽っているようにしか見えなかった。

「く、黒子」

 名を呼んで、せめて刺激しないようにと言いたいのに、三上がこちらを向いて何も言えなくなる。もう一人、堀北はどうしているのかと思ったら、つまらなさそうに扉の前で携帯を見ていた。

「おい三上、腹減った。なんか食いに行こうぜ」
「勝手に行けよ」

 頼むから一緒に行ってくれ、という願いもむなしく三上は首を振る。溜息をついた堀北は「やり過ぎるなよ」と忠告だけして出て行こうとした、それを三上が止めた。

「おい堀北、飯おごってやっからそいつ押さえてろよ」
「はあ?めんどくせぇよ」
「いいからやれって!」

 さすがに堀北も眉をひそめる。だがそれ以上止めるわけでもなく、しょうがねぇなぁと降旗に近づいてきた。

「なにをするつもりですか」
「あ、やっぱそいつの事には反応すんだ」

 ようやく口を開いた黒子に三上はニヤニヤと笑う。警戒の色を浮かべた瞳に満足げな目をして、突然黒子に襲い掛かった。

「!!」
「黒子!!」
「おっと、待った」

 下に敷いたマットに張り付けるように腕を取られ、黒子が逃れようと暴れる。それを助けようした降旗の首に、堀北がどこからか取り出したカッターナイフを突きつけた。

「――ひっ!」
「降旗くん!」

 それを見た黒子はなおも暴れるが、難なく押さえている三上が腹の上に乗って頬を強く平手で打つ。

「っ…、」

 耳まで打たれてくらくらした。力が抜けた腕を頭上で一まとめに片手で押さえ、三上はもう片手で黒子の制服のファスナーを下ろす。左右に広げ、下に着ているシャツの裾から手を侵入させた。

「や、め…」
「あれ、思ったよりいい腹筋してんじゃん。ま、いいけどな」

 言いながら身を伏せた三上が、黒子の裸の胸に舌を這わせる。気持ち悪さに自由な足をばたつかせるが、腹から太ももの上に移動され、しかももう一度平手打ちされて体から力が抜けた。

「止めろよ!…っ」

 叫んだ瞬間ちく、とカッターの刃の先が頬に当たる。頬を伝う血の感触に降旗は青ざめた。
 ずっと三上の方がヤバいと思っていたけれど、人を無言で傷つけられる堀北の方が怖い―――

「おとなしくしてろって。そうしたらすぐ終わる」

 終わるって、と降旗が黒子を見るとすでにベルトに手をかけられていた。ここまでくれば、三上が黒子をどうしようとしているかなんて嫌でもわかる。
 黒子も逃げようとはしているようだが、力も体格も三上の方が上だ。それに、

「おい、―――」
「っ!…」

 三上に何かを言われて、それまでもがいていた黒子が急におとなしくなる。その言葉は、降旗の耳にも届いてしまった。


 あいつがどうなってもいいんだ?


 顔を上げてこちらを見る黒子と目が合う。その後で黒子の抵抗が完全に止んだ。三上が黒子の体から下り、改めて服に手をかける。
 降旗の心臓がドクンドクンと音を立てた。

 このまま、何も出来なくていいんだろうか。でもずっと降旗には刃物が突きつけられていて、それに抗うなんて怖くてたまらない。

「ははっ声だせよ!」
「…っ、…!」

 見ていられなかった。はだけた黒子の体に三上が伏せてせわしなく動いている。吐き気の出そうな光景に、カッターも堀北の存在も忘れて降旗が身を起こしそうになった時―――


「何をしてるのかしら」


 場にそぐわない穏やかな声。堀北が素早く降旗の首からカッターを引き、三上がまた舌打ちしたのが聞こえた。

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