友人が亡くなった。
「……」
死因は崖からの転落。
頭を強打して即死。
「……フォーク……」
紙が詰まった本棚に囲まれて、おれはそれを読んでいた。
仕事は窓際。妻は……いや、エリーさんは、悪くない。だからそれは違う。妹は軍をやめ、今は世界中を飛び回っている。
友人……いや、親友は彼の兄がくれた手紙で死の真相をたったいま知った。
「フォーク……」
別々の道を歩いていた。
だから、出会ったことが、そもそも奇跡だった。
「……くそっ」
親友一人守れない。力がないから、窓際に送られた。
実力がないのは、薄々わかってはいた。
今思えば、あの頃が懐かしい。
まだ若かったあの頃が。
フォークがいて、他の皆がいた、あの頃が。
「クライスさーん」
ばんっと資料室――ここだ――のドアが開かれた。
「お前、いい加減……」
つっと、視線が異物をとらえた。
「えっ、ベックー?」
『久しぶり! クライス君』
持っていた看板に文字が浮かぶ。
「クライスさんに会いたいっていうから連れてきたんだよ!」
「さすがだな。変な生き物にも人脈があるなんて……けっけっけ」
「不思議な生き物ですねー」
三者それぞれの反応を無視し、おれは弾かれたようにベックーへ向かった。
「お前……どうして今さら……」
『クライス君に会いに来たのだよ』
「おれに……?」
フォークになついていた記憶はあるが、なぜおれに会いに来たのかわからない。
あまり親しくしていなかった気がするのだが……。
『クライス君は落ち込んでるね』
「なんか不幸の代名詞みたいだからな。けけっ」
「そういうこと言わないのっ!」
「みんな大変〜」
マイペースな問題児たちを尻目に。
「お前にはわからないだろ」
『だが一緒にいてやることはできるっ!』
「……?」
『クライス君の話し相手になってあげる!』
「べ、ベックーのくせに生意気な……」
「おもしれーけけっ」
「ベックー……クライスさんのあだ名可笑しいです」
「ベックーベックー」
「お前ら黙れ! それより頼まれてた仕事はどうした?」
「えへ」
「まーた追い出されちゃった」
「けっけっけ」
おれは頭を抱えた。
「あそこは比較的向いてると思ったんだが……だめだったか」
まあ、その可能性はあった。わかっていた。
軍に入隊して、問題が発覚した3人組。
成績が下位ギリギリだったのはいい。そこはまあ運がよかった。
ただ、任務遂行能力が最低。
仕事をくびにするにも帰る場所がない、フォークに関わった謎の3人組。
おれは、まぁ、フォークの――おれが知らない頃のことも知りたかったから、3人組の面倒を引き受けた。
良いか悪いかはまだわからない。
いまは大人しい。それだけだ。
(カスケードさんやハルさんたちはすごいよ)
敵わない。
おれにできるのは、この3人組をなんとかできるようにしてあげることだけ。
あの事件でおれとは別の意味でいろいろあったメリテェアは、指令部を飛び出してクレインとは違う意味で各地を巡って、軍に向いてる恵まれない子供たちを拾っている。
――それが、自己満足と知りながら。
「まあ……あれだな」
「またクライスは無駄に悩むし」
「けっけっけ。悩まないと生きていけないんだぜ」
「ベックーも元気出せって言ってるよー、クライスさん」
「ああ……」
過去を思い返しても仕方がない。
三人の顔を順番にみやる。
いつか、エリーさんとの間に子供ができて。
その子はなにを選ぶだろう。
些細な、それでいてあり得ない可能性を描いていた。
「とりあえず、今日の成果を聞こうか」
頭が痛くなるに違いはないが。
必要なことを、していくしかないのだから。
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リゼ