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「カスケードが、幸せそうでよかったよ」
ベックーを肩に乗せて、キルストゥ――ツキ・キルアウェートと呼ばれた青年は微笑んだ。
顔を隠し、彼らの家を通りすぎる。
「いまなら、わかるんだ。母さんが、傭兵だった理由がさ」
国王であり友人でもあるアイスも世代交代し、安定した国のお役目を果たし、後継ぎを残して、ツキは首都に来ていた。
「人を殺める魔――あやかしとか名は様々だけど、そういった輩を排するがキルストゥの定め」
わーと子どもたちを見つけて、ベックーが飛びおりて走っていく。
「新しい青と赤が生まれたからな。おれたちは晴れて、自由の身だ」
ツキ――死んだことになっている青年は、様変わりした国内を、歩く。
誰からも忘れられ、国を出た。
「クライスも子ども、できたんだろうな」
未来は続いていく。
自らは結局、後継ぎを見届けて、引き留めてくる友人の手を振り切った。
「しかし、シーザライズさんおれより年上なのに若く見えるんだが、能力のせいなんだろうか……」
守ってくれていた傭兵のことを思い出す。
彼がいたからこそ、キルアウェート兄弟は命を救われた。
それは、フォアとよばれた青年がきっかけだったという。
「フォークはなついてたよな」
ツキは、走り去る子どもたちに手の代わりに看板を振るベックーに苦笑した。
「いつか……ちゃんとお礼を言いたいな」
会えるかどうかはわからない。だが、なんとかなるだろう。
「母さん……父さん……」
苦労したほうだとは思う。フォークにも迷惑かけたし。死にかけたから、キルアウェートの姓も捨てた。
でも、とツキは笑う。
「それでもおれは生きてる……」
「あ、ツキ見っけ」
「絵本かい」
「あははっ、細かいことは気にしない!」
「そーそー」
二人分の陽気な幼い声が、ツキの名を呼ぶ。
「ちゃんと、お仕事しなくちゃだめなんだよ」
「神様に言われたら、しなくちゃな」
突如東の国に現れた双子の神を名乗る子どもら。
「エルニーニャ王国の魔を祓うためには、キルストゥの力が必要なのです」
と最初に対峙した彼らが告げた。最初は怪しかったが、身に覚えもあり、引退したおれがついていくことにしたのだ。 軍国家。ゆえに、裏はかなり根深く、悪い神様も潜んでいるという。
「傭兵ツキ・キルストゥには荷が重いかな」
「三十過ぎてからじゃ、きついよねー」
「まあな。だから一緒に来てくれたんだろ?」
まあね、と二人は笑う。そして近所の子どもにさらわれていくベックー。
「神様だろうが、人にあだなす存在をあるべき場所に還す。それが、キルストゥの役目だ」
「うん、頑張ろうねー」
「ああ!」
他人に言ったら笑われるだろうことを自覚しながらも、それが事実なのだから仕方がない。
この双子神も何を考えているのか。
問題は山積みだが、死なないように解決していくしかない。
そう、あの青空の下、母と父、そしてベックーとなったフォークに誓ったのだから……。
おわり
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