「戦争にならなくていいよな、この国」
「先輩さん、どうしたんですか?」
 ベックーの手をつまんでくるくる回しながら、ネームレスはフォーク・キルアウェートと食堂で相対した。
「いや、オレの出身地は戦火に巻き込まれたからな……平和がいいと思っただけさ」
「戦争……ですか」
「クライスから聞いてないか。まあ、君ら兄弟も、大変だったろう。戦争でもないのに、親亡くして」
「うん……はい……」
「だが、いまはいろんな人が支えてくれてるんだろ? クライスが早とちりで失礼した」
「えっ、クライス君なにかしたんですか!」
「はぁ? キルストゥを勘違いで……いや、知らないなら構わないんだ」
「教えてください!」
「たしか傭兵のシーザライズに助けられたとか聞いたが」
「シーザライズさんたちは、ぼくらをなぜか守ってくれてます!」
「……好きなんだな」
「え」
「シーザライズは元東の王国で兵をやっていたらしいな。フォアという青年は、経歴がない……」
 オレみたいなもんだな、と心の中で呟いた。
「フォアさんは、経歴がわからなくたってぼくら兄弟を守ってくれてます!」
「悪いやつじゃないのは知ってるさ。ただ……傭兵でもない、無職というのが気になる」
「無職でも……なんで無職ってことになってるんですか?」
「いや、不明な点が多いから、勝手にオレが無職に書き換えておいた」
「……ありがた迷惑なのでは?」
「そんなはずはない」
「なぜに自信満々なのか」
「まあ、詳細不明なやつを調べるのも、オレやクライスの仕事なんだ」
「それじゃあ、ぼくのお母さんのこともわかりますか?」
「傭兵だったが、結婚して無職になった。世間ではそれを専業主婦とよぶ」
「む、仕事してる……」
「そりゃオレは身辺調査も仕事のうちさ」
「あの、じゃあ……お兄ちゃん……ちゃんとお仕事してますか?」
「学生の子に聞かれる兄が可哀想だぞ、それ」

おわり
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