「はぁ……」

ため息が零れる。
彼は中央指令部の、通称暗部を担う大佐だ。
上官はどこか人間離れした男で掴み所がなく、部下は一人窓際へ追いやられた年上でかつ弟の上司だ。
真面目だが、それ故になぜか成績の悪い問題児たちを抱えている。
そして彼に構うネームレス、サウザンドネーム……名無し、もしくは千の名をもつらしいあいつは重火器の扱いになぜか異様に長けている。

「……はぁ」

調べても幼少期が少年兵だったことくらいしか出てこない、謎の男。
あまり弟とは会っていないのが救いだ。

「変な影響がないといいんだが……」

元々ベルドルードはインフェリア家の人間と縁があった。
仲が良く、よく会っていたらしい。
あの、軍人ツキ・キルアウェートが友人アイスを殺害したと思われていた事件、あれでやって来るくらいには仲がよかったという。
情報はある。権限を使えば豊富なほどに。
ただ、それはただ知っているだけだ。 
それで弟が守れるだろうか。
クライスはいいやつだ。
ただ、問題は大将クラスの人間の恋人(婚約者だったか)を自殺に追い込んだことだ。
本人に非はないかもしれない。
だが大将が黙っているはずもない。
頭がいたい。
一応上官はベルドルードの退官の阻止に協力してくれたし、大総統もそうだった。
……当事者にしてみれば酷なことをしたかもしれない。
だが、クライスを失うわけにもいかない。
まだ。
弟の喜ぶ顔が見える。
ベルドルードは妹がいたせいか、弟もなついている。
だから、邪険にはできない。
おれは……。
いつか選ぶ日が来る。
情報によれば、あの婚約者の親がベルドルードを狙っているという。
ろくな結末にならないだろう。調査ではヤク中の男が、男を狙っているのだから。
一応クライスの周囲にも気を払ってはいるが……どう転ぶかわからない。
上官は面白いからなるようになればいいというし……。ろくなやつじゃない。 
「おれがしっかりしないとな」
口に出して、誓う。
弟のためにも。
誰かを犠牲にしなければならないときがきたら、迷ってはいけない。
そう、生きて学んだのだから。
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