悲劇の恋人達

「うわ!」

大穴から落ちて思わずレイはしりもちをついてしまった

レックはハッサンの下敷きにされている

「どいてくれよハッサン!」

「おお、わりぃ」

ハッサンはその重たい体を退けた







「なんなんだ?」

レックとハッサンの体が透けている

レイだけは至って普通である

「これは....」

レックはこの現象に覚えがあるらしい

「そうか、君達はこの世界の事を知らないんだね」

「この世界?」

「君達はこの世界の事を幻の台地と呼ぶのだろう?その幻の台地と呼ばれるこの世界が現実なんだ」

レイは丁寧に説明しようと試みるが、2人の思考回路は既にショートしかけていた

「えっと....と、とりあえず、こっちが現実の世界ってことだろ?」

「そう、まぁいきなりこんな事言われても信じられないだろうけど」

そう、信じられるはずがない

彼達は今まで夢の世界を現実だと思っていたのだから

「とりあえず宿を取ろう。西に行けばサンマリーノってでっかい街があるはずだ」

3人は西へと歩いた







「あのさ、レイ。君ってこの世界の人間なの?」

道中でレックがレイに質問した

「あぁ、ロンガデセオってならず者の街に住んでた。あまり外に出たことはないけど地理は学んである」

そう、レイはならず者達の指名手配人であり、容易に外に出ることはできなかったのである

しかもレイは水魔法という特殊な能力を持っている

「街の外には15歳のある時期まで出れなかった。私が水の巫女だからと言ってならず者達に指名手配されて街の中の隠し部屋にこもるか戦うかしかできなかった」

「そんなことが....」

レックとハッサンは真剣にその話しを聞いていた

レイは決まりが悪いと感じ、あわてて話しを忘れさせようとする

しかしどうしても忘れられない

「まぁ、レイも大変だったってことだな!」

場の重々しい空気をハッサンが変えた

「ま、まぁとりあえずもうすぐサンマリーノに着くから....」

これ以上話したらまずいと思ったレイは宿屋の方を指差した








「ふふ、見てるといいわ」

1人の女が誰もいなくなった屋敷に忍びこんだ

「ジョセフは私のものよ。メラニィなんかに渡さないわ!」

女はキッチンの上に置いてあったドックフードに紫色の物体を混ぜこんだ

「さぁ、メラニィ。これを大事なペロちゃんにあげてみなさい。それがあなたの最期よ?」

女はそそくさと去っていった

「くそっ!あの女やってくれやがって....レイがいればなぁ。止められたんだが」

「でももう、どうする事もできないだろ?今からレイ呼んだってその間にメラニィがあの毒いりご飯をペロに与えてしまうよ」

レイは以前の傷がまだ少し痛むというので、部屋で休んでいる

レックとハッサンは幽体状態なので、人に気付かれることもない

しかも物に触れても貫通してしまう

2人はこの状況をどうにもできなかった







「ご飯よペロちゃん」

案の定メラニィは、毒いりご飯をペロに与えてしまった

しかしメラニィはそれに気づかず、何事もなかったかのように屋敷の中に戻ろうとした

その時だった....

ペロは突然倒れた

「ペロちゃん!?」

「大変だ町長!ペロが倒れた!」

町長はあわててペロのもとへかけつけた

「おぉペロちゃんや、かわいそうに....メラニィを捕らえよ!」

「そんな!私はペロ様にご飯をさしあげただけです!」

「ええい!言い訳は無用じゃ!お前以外に誰がこんな事をすると言うのじゃ!?」

「そ、それは....」

アマンダがやった

といっても証拠がない

「待ってくれ!メラニィがこんな事するはずはない!何かの間違いだ!」

騒ぎに気づいてあわててかけつけたジョセフが言った

「うるさい!お前は黙っておれ!」

「ダメです!メラニィは絶対ペロのご飯に毒を盛ったりなんかしない!」

「じゃあ誰がやったと言うのじゃ?」

「....」

やはり証拠がない

結局メラニィは地下牢に放り込まれた








「結局、助けられなかったな」

レックは不意に呟いた

「なんかもどかしいぜ」

自分達の状態がこうでなければ、メラニィの無実を証明できた

「今更遅いよな」

そう呟いていると、横にジョセフが歩いてきた

「あぁメラニィ。僕は....どうすればいいんだ?」

ジョセフの目蓋から雫が落ちた

レックとハッサンは胸を痛めた

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