Magical Night 2

目の前にある艶やかな‥しかし何モノにも靡かない凛とした輝きを放つ瞳。
それがふっと細められ、伸ばされた腕が慎吾の頭をぽんぽんと撫でた。


「さあ、皆がお前のこと待ってるから‥」

すると慎吾は意気を削がれたように項垂れて、のそりと膝を立てて起き上がった。
慎吾のマントの裾をパンパンと払う中居。
長身のバンパイアの世話を焼く黒猫…何とも奇妙な眺めだ。


「やっぱ俺じゃ、役不足かな?」

「慎吾」

しゅんと丸まった背中を優しく擦りながら中居が言う。


「慎吾は‥いい男になった」

「…そう・かな‥」


「10代の頃から見てる俺が言うんだから、間違いない」

「………」

すると慎吾は俯いていた顔をゆっくりと上げて、真っ直ぐな視線を中居に注いだ。


「俺、魅力的‥かな?」

「ああ」


「‥じゃ、Kissしてよ」

「……………」

身じろぎもせず合わせられている瞳。
やがて中居は無言のまま慎吾を見上げると、スッと踵を上げた。








席へと戻る慎吾を見送って、ラウンジで肘を突く中居。

「オーナー、黒猫がお似合いですね。」

和也がニコニコと話しかけた。

「………」

中居はひどく複雑な顔をすると、ドラキュラ姿の和也を眺めて独り言のように呟く。

「この方が楽チンだと思ったんだけど…色々厄介だ」

あまり耳にしたことのない中居の愚痴に、和也はまじまじとその顔を見た。
普段隙の無いオーナーが、頭にちょこんとネコ耳を生やして長いしっぽをお尻に垂らした様は、正直可愛らしいとしか言い様がない。

「可愛いですけどね?」

「……」

中居は小さく溜息を吐くと、皆の居る席へと戻っていった。








店内のボルテージは最高潮に達している。
ダンスを披露して盛り上がったステージで今度は拓哉がしっとりと歌い上げ、お客は皆陶然と聞き惚れている。

時計はとっくに零時を回り、否でもハイになる時間帯だ。


中居は再び席を立って裏方をチェックしてから、客達が拓哉の歌に酔い痴れている間に女性用のトイレを点検する。
男性用は店の者しか使わないが、光が漏れるのも興ざめなのでやはりランタンだけが灯されている。
一通り見回って外へ出ようとした中居は、入り口に立つ影に一瞬目を見開いた。


「‥拓哉」

それはついさっきまで店内に甘い歌声を響かせていた男。
見慣れているはずの中居でさえ、思わず息を飲む凄みのあるその美貌。

ステージでは一転、テンポのいい曲が始まっている。
拓哉は黙って後ろ手にドアを閉めると、ツカツカと中居に歩み寄る。
長いマントがふわりと足元を撫で、ひるがえった真っ赤な裏地がやけに禍々しく見えた。
そのまま至近距離まで近付くと、ヒラリと翻ったマントが中居に覆い被さった。

「…!…」

漆黒のマントの内の深紅の闇で、拓哉は中居を抱き寄せて激しく唇を奪う。


「…フ…ンッ‥」

吸血鬼の物語そのままに、白い首筋に唇を滑らせる拓哉。


「…止せ、タクヤ‥」

細い指で中居が制すと、拓哉は鼻先を擦り付けて耳元に囁く。

「超〜誘ってんだけど?」

「…………」

中居にしてみれば身に覚えのないことなのだが、どうやら盛大に誘っているらしい。


「やっぱりダメか?…耳と尻尾は」

呟きながら見上げてくるキャッツ・アイ。


「ヤバ過ぎ;」

端正なドラキュラ伯爵は、ひどく情けない顔をしてみせた。


「悪戯‥していいか?」

堪らないといった声で訴える拓哉を、キッと睨みつける中居。

「今夜は無礼講だろ?」

「それは客の話だ」

「も、我慢効かねぇから」

「…!…」

話す間にもタキシードの背中を掌が滑り降り、長い尻尾をツンと引いた。

「感じねぇ?」

「‥バカか‥」

立ったまま刹那絡み合った2人を、ランタンの灯りがゆらゆらと照らす。



「この灯りが‥余計に興奮させんだよ」

「地獄の業火だからな?」


天国へも地獄へも行けず彷徨い続ける‥哀れな男の灯す種火〜ウィル・オ・ウィスプ。


「俺達に似合いだ‥」


「‥ぁ‥」


拓哉は仰け反った細い背中を抱き止めながら、噛み付くようなキスで中居の唇を塞いだ。

それはひどく倒錯的で…この上も無く美しい画。
地獄から這い出た異形達も、固唾を呑んで夢のような光景を見守るに違いない。

やがてそっと2人の身体が離れると、ピンと耳を立てた黒猫がドラキュラの唇を指先で封じる。



「続きは、仕事が済んでからな?」




「………この悪魔;」












今宵はハロウィン・ナイト。


かぼちゃのランタンが笑い、魔女が騒ぎ、ドラキュラが口付ける。

闇に木霊するのは…黒猫の囁き。



束の間の宴に誰もが酔い痴れる、

それは不思議で不気味で幸せな‥魔法の一夜。












END
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