Magical Night 1

…今宵はハロウィンナイト。

“BlackJack”の扉の前にも、例年のごとくジャック・オー・ランタンこと“お化けかぼちゃのジャック”がお目見えし、ギザギザした大きな口やつり上がった目玉を妖しく輝かせている。


「こんばんは!ジャック♪」
「今年もヨロシクね!」
「元気ぃ〜?」

客達が口々にかぼちゃのジャックに声を掛ける。
ひときわ大きな彼は、すっかり客達と顔馴染みの様子だ。

次々と掛けられる声が一様に弾んで聞こえるのは、彼女達が様々な仮装に身を包んでいるせいだろうか?
多いのは魔女らしきコスチュームの女性。
黒をベースにした小悪魔的な装いにカチューシャや帽子でそれらしく見せている者から、ロングドレスの本格的な衣装まで様々だ。
中にはセクシーなドレスの胸や口元から鮮血を滴らせている女性や、妖精、シスター、可愛らしい動物達。
それらの仮装は、ハロウィンの晩に蘇るという死者や魔物達を欺く為の姿。
今夜は皆が「この世成らざる者」に扮するのが“BlackJack”のルールだ。

彼女達が吸い込まれていく店内も、普段とは少し違っている。
いつもの眩い照明はほとんど落とされぼんやりと室内が見える程度の明りの中、ひとつに纏められたテーブルの上には小さなかぼちゃのランタンが点々と配されている。


そして、皆を出迎える今宵のホスト達。
入口に並んだ彼らは漆黒のタキシードの上にさらりと長いマントを羽織り、微笑む口元から飛び出した2本の牙。


「きゃ〜ドラキュラね♪」
「いや〜ん、格好イイ!」
「拓哉、ヴァンパイアもセクシーだわ。」
「やっぱり優雅なのは吾郎でしょ?」
「ノーブルな剛も素敵よ♪」
「あ〜ん、慎吾に攫われたい!」
「光一と和也は美しい伯爵ねぇ〜」

そんな彼らに手を取られ、皆一様にうっとりとした表情で席に着く。
今夜は個別のテーブルではなく、全員で大きなテーブルを囲む無礼講だ。

「拓哉〜歌って♪」
「剛と光一で踊ってよ!」

囃し立てる女性達。
中央には簡易のステージが用意されていて、宴もたけなわになればホスト達が入れ替わりで歌い踊るのだ。

続々と客達が集まり、あちこちで澄んだ音を立てるシャンパン・グラス。
波のようにわき起こる華やかな笑い声。
元々誰の客という区別のない“BlackJack”だが、今夜はいつもとは違うお相手に見蕩れてみたりするのも一興だろう。


「ねぇ拓哉、オーナーは?」
「そうそうオーナーも仮装するんでしょ?」
「オーナーのドラキュラ伯爵も早く見たいわぁ。」

女達に言われるまでもなく、拓哉も中居の仮装が気にならないはずがない。
しかし用事があるのか、開店準備を済ませてから外出していた。

「すぐ戻るって言ってたから」

“BlackJack”はオーナーである中居の魔法が掛けられた店なのだから、彼が居ないことには始まらないだろう?客をなだめながら内心でごちる拓哉だった。




開店から小一時間も経っただろうか。
店内もすっかりハロウィン気分が盛り上がった頃、ようやくオーナーの中居が姿を見せた。


「皆さん、今宵は無礼講です。どうぞ心ゆくまで楽しんでいって下さい。」

中央のステージに立ってそう挨拶すると、中居は優雅に微笑みながら手にしていた小さな袋を皆に配り出した。

「ハロウィンの晩には、子供達が近所の家を回ってお菓子をねだるんです。“お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!”って言いながらね。もしもホスト達にそう強請られたら、袋の中のお菓子を渡して下さい。でないと‥悪戯のKissをされますよ?」

オーナーの説明にきゃ〜と歓喜が沸き起こる。
無論Kissの悪戯を断る女性はいないだろう。
そんな中、1人の女性が声を上げた。

「オーナー!何でドラキュラじゃないの?」

「そうそう、せっかくのハロウィンなのにぃ!」

確かに今夜の中居は皆と揃いのタキシードに身を包んでいるものの、微笑んだ口元にはあるはずの牙はなくドラキュラ伯爵とは言い難い。
不満の声が起こる中、中居はペロリと舌を出してステージを降りた。
その後姿には‥

「あ〜!オーナーのお尻にしっぽが生えてるぅ!!」
「ホントだー可愛い♪」

中居の形のいいヒップに揺れている真っ黒な長い尻尾。
更に和也に手渡されたカチューシャで、ピンと尖った耳を付ける。


「「「「きゃ〜〜〜〜♪♪」」」」

上品な黒猫に変身したオーナーの姿に女性達は大興奮だ。


…やっべ;

どうやら興奮したのは客達ばかりではなさそうで‥
いつもクールな横顔を見せるオーナーが口にした「無礼講」という言葉と蠱惑的な黒猫姿に、否応無く胸が高鳴ってくる。


「お菓子をくれないと‥悪戯しちゃうぞぉ!」

「きゃあ♪」

側に居た女性に絡んで気を紛らわせる拓哉だった。



「オーナーすっごい可愛いね。なんかドキドキする」

正面切って言っている剛。
オーナーも満更でもない笑顔を返した。


「僕も、さっきからドキドキが止まらないんだけど?」

便乗するように被せてきた吾郎には、やや冷たい視線を向ける。

「コラお前達、オーナーを誉めてどうするんだ?」

「え〜気を使わなくていいよぉオーナー」
「そうそう、あたし達より断然可愛いモンね!」
「負けたわぁ〜♪」

客達にまでそう言われ、苦笑するしかない中居だった。




しばらくすると中居は、裏方へ回って厨房を覗いた。
今夜は皆興奮しているせいか、冷えたフルーツの注文が相次いでいる。
在庫をチェックして席へ戻ろうとした中居の背後に、大きな影がにゅうと伸びた。


「慎吾?」

「‥オーナー‥」

慎吾はぼうっとした様な、それでいて思い詰めたような表情で立っている。

「どうした、具合でも悪いのか?」

心配そうな顔になって覗き込んだ中居の大きな瞳に、情けない顔をした自分が映し出されているのが慎吾にも分かった。
次の瞬間、突然タキシード姿のままガバと床に跪く慎吾。


「‥何の真似だ?」

事態が飲み込めず立ち尽くしている中居を上目遣いに見上げながら、切羽詰った声を張り上げる。

「どうか今晩‥お持ち帰りさせて下さい!!」

「……………」


中居はほうっとひとつ溜息を吐くと、土下座している慎吾の側にしゃがみ込む。

「慎吾?顔上げろ、…お菓子やるから」


「‥子供騙しじゃなくて、俺本気だから。」

「……………」

「‥この通りぃっ!!!」


目を瞑ってぐりぐりと額を床に擦り付ける慎吾に、中居は一段声のトーンを下げる。


「土下座では‥本当の願いは叶わないぞ?」


「…オーナー‥」


言われて、慎吾はハッと顔を上げた。



- 1 -

[*前へ] [#次へ]

戻る
リゼ