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もっと欲しがればいいと思う



奥州。独眼竜と名を馳せる伊達政宗は、その右目、片倉小十郎との鍛練に精を出す男を見てそう思った。



本気の小十郎相手に一歩も引けを取らないその男は、小十郎が伊達に使える前から付き合いのある、云わば"幼馴染"らしい。

最近、伊達軍に入りたいと志願して来たのだが、それも小十郎の推薦があったからだという。
もちろん実力も申し分なく、時折小十郎が膝をついている姿を見る。
また頭もキレるようで、軍義において行き詰まると、ごく自然に口を開き、突破口を考え付く。

新参者だというとに兵達の人気高いようだ。



まさに"完璧"と言っていいほどの相手なのだが、政宗はその男に一つ不満を持っていた。




「……Hey! ○○!! 」




「!」


『! …政宗様!』


小十郎に向かっていた木刀が下ろされ、同時に頭を下げた。
軽く手招きすると小十郎に木刀を預け、言葉を交わし此方へと足を進めた。





『…お呼びでしょうか? 政宗様。』



「………Oh〜…。悪ィな鍛練中。」


濡縁より見下ろす形で政宗は○○に向き合った。

とんでもないことでございますと、礼儀正しく頭を下げならが微笑む○○に、政宗は以前からの問いを再び投げ掛けた。


「…"褒美"の件は何か思い付いたか?」


政宗のその言葉に、○○は苦く笑った。








先の戦で、○○は敵の総大将を打ち取った。
その前の戦では、政宗を背後から襲おうとした敵を切り捨てた…。

望めばそれなりの褒美を用意する程の功績だというのに。○○の言葉はいつも決まって…


『…私のような者に、そのような気遣いを頂けただけで幸せにございます。』



…これだ。

しかし、決してへり下っている訳ではないことは、○○の顔を見れば分かる。
政宗のその言葉に、本当に嬉しそうに笑うのだ。



そして、その笑顔が政宗好きだった。
何とも優しく、少し照れたようなその笑顔が。
だからこそ、○○が望み、欲したものを与えればどんな顔を見せてくれるのか…。政宗の頭には常に"ソレ"があった。






「……………OK. 悪いが、小十郎を部屋に呼んでくれ。…成るべく急ぎでな。」




承諾の返事と共に頭を下げた○○を一瞥し、政宗は自室へと向いていた足を再び動かした。














「………で、私にどうしろと?」


○○からの伝言を聞き、いち早く政宗の部屋へと訪れた小十郎は、肩を落とした。
それは奥州を統べる絶対的な主君の言葉によるものだった。



「Ah〜…? だからよ。 お前になら○○のdesire(望むもの)を素直に話すんじゃねぇかと思ってな。」



「…南蛮語で申されても、小十郎には分かりかねますが…。つまり、○○の欲しているものを私に調べろと?」



Yes!と持っていた扇子を、向かい合うように座る小十郎に翳し、悪どく笑った。


小十郎は再び肩を落とし、息を吐いた。




「急ぎと言うので何事かと思えば…。」



「しょうがねぇだろうが、俺が聞いても答えは決まってんだ。」



政宗の言葉に、小十郎は首を傾げた。


「…言葉だけで充分だってんだ。」


「…………。」

なら、それでいいではないかと、内心思う小十郎だが、送る相手、つまり政宗自身が"それ"では満足できないということなのだろうと理解した。



そして暫し考え、以前畑の手入れを共に行っていた際、○○がふと呟いた一言を思い出した。



「……"望むもの"とは少し違うと思うのですが…。」


「Ah?」


政宗と視線を交えながら、小十郎はその時のことを思い出しながら、言葉を続けた。




そして聞き終わると同時に、政宗は膝に乗せていた腕をガクリと落とした…。




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