雄英臨時清掃員。2

雄英高校USJ(ウソの災害や事故ルーム)にてヴィランの襲撃を受け、平和の象徴オールマイトが脳無吹っ飛ばしたその時。圧倒的な力やNo.1という称号への己の非力さに溢す言葉の数々とはまた違い、リーダー各の少年が漏らす悔しさの言葉ともまた違う"怒気"が上から降ってきた。




『…窓を割りやがったのは何処のどいつだ。』


!!!!????


「!!!○○くん!!!??」

『!?またアンタか!』


スタッ
と。降りてきたスピードから着地したとは思えないほど軽やかな音を立て、オールマイトに詰め寄る男を見ながら、その場にいた誰も呆気にとられた。


"あれは誰だ?"

そんな皆の目などお構いなしにその男 臨時清掃である○○は一呼吸溢した後、オールマイトを睨み合いならが淡々と続けた。


『…アンタ…今日の俺の清掃場所知ってたよな?最近毎朝聞いてくるよな??それはあれか?やっぱり俺の邪魔をしようという魂胆か?』

「!?いや!断じて違う!!それは○○くんと一緒にお昼を食べたいからで合って…ーッて!○○くん怪我はなかったかい!!?」


確かめるように手を伸ばしたその時、○○鋭い右ストレートがオールマイトの頬に決まり、立ち尽くす生徒の横を凄いスピードで吹っ飛ばされた。


「!!!オールマイト!!!?」

出久が叫ぶ。

長身とはいえ自分達と同じような細身の体型でありながらマッスルフォームのオールマイトをブっ飛ばした○○に目を見開く。



因みに○○にはオールマイトを吹き飛ばせるほどの"力"はない。頬にその拳を当てた瞬間オールマイトの"睡魔を増幅"させ、その"体重を減らし"吹っ飛ばしたに過ぎない。立てずにいるのは只単に疲労による体の影響も合間って瞬時に深く眠りに付いた為だ。


しかし○○の個性を知るものは吹き飛ばされたオールマイトのみ、故に真実を知りえたものはいない。

事実。"牽制"のみで相手を怯ませることのできるオールマイトが吹き飛ばされたのだ。





『…人の怪我を心配する前に先ずは窓掃除を邪魔したことを謝るべきだろうが。』


いや、そうじゃないだろう…
誰かが呟いたその言葉もピクリとも動かなくなったオールマトには届いていない。



『…………。』

○○はくるりと辺りを見渡した。


地面は反り返り。木々は薙ぎ倒され。花は潰されてている。


…雄英臨時清掃員である○○は思った。
まさか、"この"清掃は自分の仕事になるのかと。

だが、○○は落ち着いて頭を巡らせた。
授業ならば仕方ないと。それが自分の仕事なら仕方ないじゃないか…と。しかし、天を仰ぎ自分が落ちて"穴"から見えた空にふと思った。



…明らかにやり過ぎだよな。と。






「…ねぇ…、何なのお前…。お前もヒーローなの?」

ガリガリと首かきながら言葉を溢した少年へと○○は顔を向ける。


「知らないんだけど…、聞いてないんだけど。何なのお前…。何なんだよ。」


『…雄英臨時清掃の○○デス。』


徐々に速度を上げ近付いてくるその少年 死柄木弔の問いに答えながら、○○は頭に巻いていたタオルを取った。


「清掃員…だって…?」

顔面を掴もうと伸ばされたその手を避けながら、○○は相手の服装を確認する。

そして此方に視線を向ける生徒たちにも同じく。その服は謂わばヒーロースーツ。○○もよく目にする雄英の体操服ではなかった。


ブンッ!

舌打ちと共に繰り出される手のひらの攻撃を器用に避けながら○○は考え込む。全員雄英の生徒&教師かと。


ブァアッ…!!

『!…?』

黒い霧が辺りを囲う。

突然の出来事に○○は首を傾げながら手に持っていたタオルを大きく降った。



ブァアアアアァアアアァァッ…!!!!!


「ッ…!!!」
「!!?何ッ…!!!?」


立っていられないほどの風量に黒い霧は散り、死柄木弔は元いた場所に戻される。


「なッ…何なんだアイツ!!?」

爆豪勝己の言葉に同調するように皆の○○から目が放せない。
オールマイトと脳無との殴り合いで発生した"力"のぶつかり合いで生じた"圧"とはまた違う純粋な"風"の圧倒的風量。



皆が息を飲む中、○○は軽く息を吐いた。

そして、考えるのを止め腕時計を見る。





3…2…1…。


遠くで授業の終了を告げる鐘がなった。
その音はきっと臨時清掃員として本格的に掃除が始まったことを自覚した○○の耳にしか聞こえてはいない。



○○は顔を上げた。


『…掃除するんで出て行ってモラエマスカ?』



「…掃除だって?」


…ここで余談だが、言葉というものは状況に応じて人それぞれ捉え方が異なる事がある。



「!…あはははははは!!…なるほど!なるほどねぇ!それで"清掃員"。…まったく……ホントに苛つくよ。雄英にこんな隠し玉がいたなんて…ね。」


そんな死柄木の言葉の間にも、○○は手に持っていたタオルを手に巻き、天井から落とされたガラスの片付けを初めていた。



…ここでもう一つ。
言葉と同様。"行動"も人によっては捉え方が異なる。○○は言葉通り掃除を開始したに過ぎないのだが、"敵意"を剥き出しにした死柄木弔は○○行動そのものが"無視"されたと捉えた。

これは明らかな"余裕"、とも。




「…ーーッ…チッ!」

「!!止めなさい!死柄木!!」

同じく○○の明らかな"余裕"に異変を見た黒霧の言葉を受け入れる余裕なく死柄木弔は苛ついた感情のまま再び○○へと向かって行く。


ガシッ!!

ガラスを拾う○○のその腕を掴み、ニヤリと口角を上げた。


『………。』

「!!何ッ…!?」

相澤と同じく皮膚から"崩壊"させようとしたが、腕は愚か服すら全く変わらない。それどころか、○○自身の方からその手を退けようと重ねられた手の温度に死柄木は酷く驚き目を大きく見開いた。


顔を隠す手の隙間から間近で視線が交差する。

崩壊できなかった事への驚きよりも、交わした視線の真っ直ぐさとその手の温もりに酷く動揺した自分自身に、死柄木弔は恐怖した。


「ッ…ヒッ…!」

『?…ガラスは切れると痛い。怖いなら離れてろ。』


力が抜けるように後退していく死柄木を横目に、○○は再び手を動かす。
黒霧は素早く霧を死柄木に纏わせ、その場を後にした。




死柄木はその視界が黒に染まる瞬間まで捕まれた自身の手と、此方を一瞥することなく手を動かし続ける○○から目を離せなかった。














カチャカチャ… ザッザッ


『…ったく。…臨時ボーナスくらい出ねぇかな。…それかお菓子休憩。あー…でもそうなるとお菓子代が今以上になるのか…』



…………。


ブツブツと言葉を漏らす姿を誰かと重ねながら、委員長である飯田天哉がプロヒーロー達を引き連れて参上するまで、生徒たちはその場を動くに動けずにいた。
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