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雄英高校ヒーロー科合格通知を胸に抱き、緑谷出久はまだかまだかと目的地へと走るバスからの移り変わる景色を見続けた。

そして時折、自分の三つ前に座る幼馴染み 爆豪勝己をチラリと横目に見る。



幼馴染みといえど、昔のように仲が良いとは決していえない二人の溝を更に広げた雄英の試験から其ほど日が立っていないにも関わらず、彼ら二人がこうして同じバスに乗っているのには単純な理由がある。
それは、二人の目的と目的地が全く同じだからだ。



次第に乗客が減り二人だけになれば、そこはもう都心から外れた田舎道へと入る。

バスはとある山の麓、終点に止まった。
最近此処にも熊が出ると運転手から注意されながらも、二人はお金を払いバスを降りた。




ザッ… ザッ …ザッ

一定の距離を開け、二人は同じ道を進む。
途中からは決して車では通れない細い獣道を進み、古い桟橋を渡る。


後は見えてくる"大木"を目指すのみ。



「!」

「あ、…!」

思わず溢した"歓喜"の声に前を歩いていた爆豪勝己が振り返る。
咄嗟に口を塞ぐ出久だが、勝己は鋭い目付で出久と距離を積めた。

怒鳴られる!
思わず目を閉じた出久だったが、いつまでも来ない怒号にそっと目を開けた。


「……?かっちゃん…?」


「…休戦だ。」

「え?」


「"ココでは"休戦だっつてんだよ!!いいか!?"○○"に余計なこと言いやがったらブッ殺すからな!!」


「!!う、うん!」

反射的に返事を返した出久に再び背を向け、勝己はまた足を前に進めた。その速度は先程より早く、出久は離されないよう慌ててその背を追った。



"○○"。
その名を叫んだ勝己も、その名を聞いた出久も共に同じ胸のざわつきがもう抑えられないものとなっていた。





ザッ…ザッ…ザッ…


ザッ…ザッザッザッザッ!!


見えてきた山に溶け込むように立つ日本家屋に、走りだしたのはどちらからか。



「!」
「!」


此方に手を振る着物の男に笑みを溢したのはどちらからか。



「○○!」
「○○さん!!」


二人は速度を上げ、迎えるように広げられたその腕に同時に飛び込んだ。
携帯も繋がらないこの場所で何故二人が来る事を知っていたのか、などという疑問は懐かない。○○は"そういう人"だということを二人はよく知っているからだ。



『勝己。出久。…よく来てくれたな。』

懐かしい香りと暖かさに二人は酔う。
普段ならば隣に立つことも嫌う勝己も、共に抱き締められたことにより肩が触れ合っているにも関わらず、気に止める様子もない。


『ああ、ちょっと見なかっただけで本当に大きくなって…。子供は成長が早いなぁ。』

嬉しそうに撫でらた頬に導かれるように顔を上げれば、そこには木漏れ日のように優しく微笑む○○の顔が迫っていた。

「「ーーッ!」」

視界に広がった彼らの"ひかり"に、二人は"何かが"解放されたように自然と涙が溢れていた。




爆豪勝己と緑谷出久がこの山に住む○○と出会ったのは、まだ二人が手を取り合って遊んでいた幼少期の頃、二人揃って"家出"をしたことに始まる。無鉄砲だった勝己を心配して出久が付いて回り、怖いもの知らずで終点までバスに乗り、この山を登った。そして迷った。
そしてそんな泥だらけで涙を流す二人を見付けたのが○○だった。消え入りそうな儚げな雰囲気に二人が幽霊かと騒いだもの一瞬で、山を登ってきたことへの頑張りを誉めれられ二人は張り詰めていた糸が切れたように、その見知らぬ男であった○○にすがり付いて泣いてしまったのだ。
そしてそのまま気を失うように眠り、次に目を覚ますと古い屋敷の中だった。

それからだ。彼らは事ある後とに○○の元に訪れている。二人がその距離を広げても、ひとりで来ることが多くなっても、○○は変わらず彼らを迎えている。

○○の"何が"そうさせるのか…それは分からない。ただ、彼の顔、香り、声…温かさ。"○○"という人物と出会ってしまったら何故今までそれしで生きて行けたのか分からぬほど、彼等には無くてはならない心臓の一部のようになっていた。





『…さて、今日はどうしたんだい二人とも。"揃って"来てくれるなんて…本当に嬉しいよ。』

○○は視線を合わすように少し屈み、二人の背に回していた手を肩に添え直した。


暫しこの場所に来れなかった"結果"を誉めてほしい。勝己と出久は同時に頬を高揚させ口を開いた。


「雄英に受かった!!」
「雄英高校に合格したんだ!!」

『!』

「!被せんな!デク!俺が先だろうが!」
「ッ!ぼ僕だって○○さんに一番に言いたかったんだ!」


至近距離で睨み付け合う二人を止めるように○○はその手を二人の頭に乗せ、優しく撫でた。


『…そうか。二人とも頑張ったんだね。凄いじゃないか!』


「!〜〜ーーッ!あったり前だ!」

「!えへへへ!」




"ああ、これだ。"


ジワリと身体全体を支配するように広がったその暖かさに、勝己と出久は再び○○の腰へとその腕を回した。


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