弾丸の告白



眉目秀麗、不撓不屈、独立不撓、完全無欠…



彼の仕事ぶりを知る者は皆口を揃えて賛辞を述べるだろう。どんな困難な状況であっても、彼は首を横に振らない。眉ひとつ寄せることなく完璧に遂行して見せた。



"仕事"に関して私情の感情は持ち込まない。

"裏"の鉄則を忠実に守る。○○にとっては"それ"だけのことに過ぎなかった。










…だが、今。○○の表情は確かに怒気を含んでいた。



『…………。』


「♪〜…」


ロシアの"皇帝"であり、今回○○の仕事対象であるフィギュアスケーター、ヴィクトル・ニキフォロフは○○の腕に身体を絡ませ、鼻唄を響かせながら露天風呂に浸かっていた。









空港で○○の姿を捕らえた瞬間、堰を切ったように溢れ出した歓喜が纏まらず、言葉を詰まらせたヴィクトルなどお構い無しに○○、"仕事"内容を簡潔に伝えた。


『…○○だ。…お前の護衛として依頼を受けた。故に行動を共にする。』


「…あ…え…?…護衛?」


『自分の"立場"ぐらい理解しているだろう。…これは"国"の決定だ。お前の個人の意志は通らない。』


驚くヴィクトルの表情を"護衛"事態を毛嫌いしたのもと勘違いした○○は、睨むように続けた。


徐々に気持ちが落ち着き、内容を把握し始めたヴィクトルは戸惑いながらも、それでも笑顔を押さえられなかった。


「……つまり、○○は俺と一緒にいてくれるって事だよね。」


『対象はお前なんだ。当たり前だろう。』


「!!ーーー〜〜ッ…!」



ヴィクトルは改めて、自分は神に愛されてることを確認した。












それからヴィクトルは○○に張り付いている。



『……邪魔だ、離れろ。』


「や・だ。」



『……………。』


「♪〜」



○○は、その広い眉間に銃口を押し付けたくなった。


ヴィクトルの"目的地"へ着き、非常経路や館内の様子を確認した○○は、ヴィクトルに誘われるまま初めて他人と風呂へ入った。

当初、拒否する○○に、ヴィクトルは言葉巧みに"仕事"を利用した。


「お風呂って裸なんだよ?一番気抜いてるときに狙われたら俺怖いな〜。今までのボディーガード達も普通にいてくれたよ?(外にね) ○○は優秀だろうから傍に居てくれるだけで安心できるし…ね!」


『…………。』



護衛の経験などない○○にとって、"正解"など解らないのが本音だった。

スナイパーとして、やることは只ひとつだった。つまり、"答え"は明確にあった。
しかし、護衛の本質は"守る"こと。"全てのものから"という不明確な対象故に、○○はこの仕事が"嫌"なのだ。

だからこそ、"守られる"ことの多いヴィクトルの言葉に従うことも、また彼の優秀さを示していた。




「あ〜。気持ちいいね〜、○○。」


…だが、基本群れることを嫌う○○にとって、この状況は煩わしい他なかった。


「…ねぇ、○○、君のこと教えてくれないか?」


『…言った筈だ。お前の護衛だと。』


「あはは、違うよ。それは"仕事内容"だろ? そうじゃなくて、例えば好きな色とか、好きな食べ物とか…。」


『…………。』


○○は眉間の皺を深くした。



人は言葉の裏に、本質を隠すものだ。


ーーコイツは何を聞き出そうとしている?



探るような視線を受けても、ヴィクトルは"表"の者だからなのか、変化のないその笑顔に、○○は僅かに困惑した。





そして、次にヴィクトルから放たれた言葉に、その表情が驚きに固まった。






「俺は君が好きだよ。」




「だから、好きな人のことは何でも知りたいって思うじゃないか。」







『………は?』




こめかみに受けた唇が、もし銃弾だったなら、○○は間違いなく死んでいた。

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