雨丸の効用


ちょっとグロめ?注意です。




昼下がりのヴォルガー本部の廊下に無邪気な子供たちの話し声が響く。
ここがWS並の軍事力を持つ犯罪者養成施設でなければ、子供たちが無邪気な顔の下に、残酷な性格を合わせ持っているとは誰も思わないだろう。


「あーあっ、つまんなーい!!」
くるくるした髪の女の子がふて腐れて、歩きながらのびをする。

「かがり、どうしたの?」
かがり、と呼ばれた少女と顔のよく似た少年がかがりの顔を覗き込んで尋ねた。

「だって、いさりお兄ちゃん。新しく来た子達いたでしょー?」
うんうん、と二人と一緒に歩いていたおかっぱ頭の双子も首を縦に振る。


「その子たちの中で綺麗な黒髪がいたら、私用に取っといてって『彼』に言ったんだけど、」


唐突に話を切るが、かがり以外の子供達はかがりが言いたいことが全て分かったようだ、「あー、なるほどね…」と顔を見合わせる。


それから双子達は目的地の、廊下の突き当たりにある訓練室の中に入っていった。


***
「彩花ーーーっ!!」
大声で叫んだかがりを先頭に、四面を白で配色された広い立方体型の部屋に入る。

「うっわ……」
犯罪のためにここで養成されている双子達でさえ顔をしかめるほどの凄惨な光景。

部屋の中心に『彼』は立っていた。
累々と積み重なる死体と共に、全身を返り血で真っ赤に染めて。


普段は白い床であるはずが、彼の周りだけ、真っ赤な血で染められている。
特有の鉄臭い匂いが鼻孔を刺激した。

「やっぱり全部やっちゃったのねー!!」
かがりがぷぅっと頬を膨らませて彩花に近づいていく。

床に撒き散らかされた血が、かがりの足音に合わせてぴちゃぴちゃと跳ねた。

「………、何か用ですか?」
返り血を浴びた顔を不機嫌そうに歪めて、かがりの方を振り向く。

「何か用ですか?、ですって!?私との約束忘れたっていうのー!?黒髪残してって言ったでしょ!!く・ろ・か・み!!」
いやー!!この子の黒髪結構綺麗じゃなーいっ!!もったいない!!焦がしたかったのに!彩花のばかぁーっ!!


と怒涛の勢いでまくし立て、地だんだを踏んで悔しがる。
そんなかがりを横目でみながら、彩花はいさりから差し出されたタオルで、顔や手足に纏わり付く血を丁寧に拭き取り始める。

双子達は既にかがりの言動には慣れていて、またか、といった表情だった。

かがりは、ひとしきり暴れ回った後に彩花の方に上気した顔を向け、きっ、と目を吊り上げた。
「大体ねぇっ!!雨丸がいないからって八つ当たりは…もがっ」
「「「しっ!!」」」

かがりが不満を漏らし始めた瞬間、双子達は、迅速に行動し――かがりの口を手で塞いだ。

実は今、彩花のパートナー、めぇこと雨丸は彩花と別メニューで任務につかされている。
それがたまにあったときには、彩花は地を這うぐらいの機嫌の悪さである。
それも、八つ当たりして訓練相手を全滅させたり、別メニューを課した上官を殺してしまうくらいに。

ここで彩花の尖りに尖った神経をさらに逆なでしたら、自分達の身が危険だ。

かがりの言葉に彩花の眉がぴく、と跳ね上がり、口を塞がれたかがり以外の双子が身体を強張らせた時、


「彩花ーーっ!!たっだいまー!!」
双子達にとっては天使の声に聞こえたであろう、訓練室の開き戸をばぁん、と勢いよく跳ね開け、雨丸が満面の笑みで部屋の中に入ってきた。

「めぇっ!!」
さっきの機嫌の悪さはどこへやら、頬をバラ色に染めて雨丸に駆け寄り、抱き着く。

顔を花開くようにほころばせている彩花はさっきとはまるで別人だった。


「…雨丸がいてくれたらヴォルガー内部は平和だよな」




END


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おかっぱ達の名前が知りたいです。
縁が好きすぎます!
リゼ