3
廊下沿いに連なるドアをコツコツと叩きながら歩く雨丸に手を引かれて進む。
「んー、どこだろ」
一つ一つ丁寧に確かめていくが、目的のドアが見つからないようだ。
「ここ、かな?」
カツ、と音がした。
木製のドアにしては異常な音。
「あ、ここだね。うん、間違いない」
確信した表情でドアノブを回す。
ドアがキィ、と音をたてながら数cmほどゆっくりと開いた。
「じゃあ、俺は行くね?ごゆっくり、どうぞ」
ゆったりとした口調で囁かれたかと思えば、ポン、と背中を押されてドアの向こうへ押しやられる。
「おい……!!」
後ろでカチャリとドアが閉まる音がした。
鍵の閉まる音と共に、やけに嬉しそうに弾む足音が遠ざかっていく。
「………」
諦めて部屋の中を見渡すと昼とは思えないほど暗い。自分の手がやっと見えるほとだ。
非常に不本意だが電気のスイッチを探すしかないらしい。
壁伝いに沿って闇雲に手探りする。
(スイッチってドアの近くにあるんじゃないのか…!?なんでないんだよっ……!!………あ、)
右手が小さな突起に触れ、見つけた…!!、と頬を緩めてスイッチを押そうとしたとき。
右手がなにか暖かいものにさらわれた。
弾みでスイッチがオンになり、ぱあ、と部屋の中に光が溢れる。
暗闇の中に押し入れられたのは数十秒前のはずなのに、まるで何日も何年も暗闇に居たように光が眩しすぎて。
「………っ」
呻きながら左手で顔を隠そうとしたが、
右手を掴んだ何か、いや、誰かが、今度は真音を力いっぱい抱きすくめたからそれは出来なくなった。
その人は、歓声を身体中から上げながら。
久しぶりの再開を嬉しがるかのように。
「わわっ、本当に本当に真音だ、真音!!真音ーっ!!」
気配を感じなかったから油断していた。スイッチのすぐ近くに待ち構えていたらしい。
「な、」
あまりにも強く腕を巻き付けられているから身動きが全くと言っていいほど出来ない。
むしろ窒息してしまいそうだ。
苦しそうな真音を知ってか知らずか、腕は青年によってすぐに解かれた。
「あはっ!びっくりしたー!?真音?すごい凝ってるでしょ!?雨丸と彩花にも協力してもらってね…」
蒼。
第一印象が、それ。
青年は蒼の色彩で彩られていた…、自分と同じく。
自分が余程呆けたような表情をしていたのか、青年の表情が次第に雲っていく。
最後には眉間に皺寄せて、目つきが鋭く。
「ああ、成る程ね。……雨丸も気付いたなら言ってくれればよかったのに…、放置主義なんだから、ねぇ?」
低く呟けば、こちらには不信感が募ってくる。
「おい、どういうことだよ。説明しろ」
「……説明、かぁ。どこからすればいいの?」
「最初からだ」
「じゃあ、」
何が来るのかと次の言葉を待った。
「僕と真音は双子でパートナーです、でどう?」
「……………はぁ?」
口をポカンと開けた自分はたいそう間抜け面だったに違いない。
青年はくすり、と笑い出す。
「あれ?信じてないの?」
「当たり前だろっ!?だいたいパートナーなら俺にはもう………!!
…………………あれ?」
「どうかしたの?」
くすり。
勝ち誇ったような笑みを顔に浮かべる。
「…………あ?」
思い出せないのだ。
今日までずっと一緒に行動してきただろう、いや、してきたはずのパートナーが誰だか思い出せない。
否、知らない。分からない。
「うん、それが当たり前なんだよ、真音」
青年が優しく頭を撫でればごく自然に睡魔が襲って来た。
「僕が、すぐに思い出させてあげるからね」
ゆっくり瞼を閉じ、青年にもたれ掛かるようにして倒れ込めば、耳元で一フレーズの旋律が甘く響いた。
圧倒的な力の奔流に身を任せ、眠りに落ちる。
真実が足音を高らかに響かせ、迫ってきていた。