策略か、偶然か、
彩花から氷魚への仕事の依頼があった。
いつもならすぐに駆け付けるくせに、この日に限っては来なかったため、氷魚の隠れ家(?)的な場所まで蜜歌が依頼の内容を伝えることになってしまった。
この辺りではたいして珍しくない洋館。
蔦が幾重にも絡み付いていて不気味さを増長させている所がいかにも氷魚らしいと言えばらしい。
車から降りて門を片手で押すと、ギイイと音を立てて開く。意外にも鍵は掛かっていない。
もしかしたらここにいるのかもしれない。こんな面倒なことはすぐに済ましてしまいたいからこっちにとってはありがたいことだ。
…玄関のドアにも鍵はかかっていなかった。
(………不用心すぎるんじゃないの?)
何か策略のようなものを感じるが。
でもそんなものを仕掛けられる理由もないし、掛けられていたとしてもそれを回避できる自信はある。
とりあえず洋館の中に入ってみると、廊下の左右の壁には幾多の絵が掛かっていたり、骨董品が置いてあったり。いかにも、な感じが漂っている。
氷魚の事だから全て盗品かもしれないのだが。
「氷魚、いない?」
声を掛けても返事がない。
でもこれだけ広いのだ、端のほうの部屋にいたらあの氷魚でも気づかないだろう。
そう考えて目の前に伸びている廊下を歩きだした。
少し歩くとこの家の作りが分かってきた。
どこを歩いても同じ風景、…つまり歩いているうちにどこを歩いているか分からなくなるように工夫してあるということだ。
さながらメイズのような。
(ふぅん……、やっぱりやることはやってるのか)
あたりをキョロキョロと見渡しながら歩くと、他とは違いドアが数センチ開いている部屋がある。
興味をひかれて中へ足を踏み入れると。
まるで何かのお伽話のような光景が広がっていた。
部屋の真ん中にはカーテンな四方をを囲まれたベッドが一つだけ。
………だけではない。
床には溢れんばかりの、人形、人形、人形。
動物のぬいぐるみから人型の人形まで。
いつかに氷魚が連れてきたような精巧な生きているような人形とは似ても似つかない安っぽい作りなのだけど。
よくみると人形が人間一人が通れるくらいの道を残して配置されている。
それはこの部屋で唯一まともに見えるベッドに向かって伸びていた。
気味の悪さを覚えながらもそのベッドに近づき、それを覆っているカーテンを開けると。
白い布に埋もれて人形が寝かされていた。………いや、人形?
人形のように顔の造作が整っているのは確かだが、バラ色を帯びた滑らかな肌、気持ちよさそうに緩めた口元は人間特有の物ではないか。
こんなのが人形であるはずがない。
左手をベッドの端につき、誘われるようにゆっくりとその頬に右手を伸ばす。
(あ…………)
触れた瞬間、パァン、と何かが頭の中心で弾けたようなそんな音が確かに、した。
それに答えるように、人形のような彼は、呆然としている蜜歌の目の前でゆっくりと目を開いた。
その唇が音を紡ぎだすとき、濡れて煌めく瞳が僕を見詰めるとき、僕らは何を思い出すのだろうか。
確信めいた何かを胸に抱きながら、長らく待ち望んでいたであろうその瞬間を、待った。
熱の移った右手がさらに熱をもつのを感じながら。
------
多分初めての蜜真小説ー!!
でもなんだか蜜真というよりは蜜歌+真音?
あと真音出番少ない…
設定としては、わかりにくいのですが、真音は氷魚に助けられたけど眠りっぱなしで、蜜歌はショックで真音を忘れてしまった、みたいな感じです。
5/17