淡恋【5】
朝日がカーテン越しに眩しく差し込む寝室のベッドの上で、斎藤はゆっくりと体を起こすと軽く伸びをする。



きちんと睡眠をとった体は、前日の疲れをほとんど残しておらず苦笑する。


最初は、あまり眠れなく疲れも中々とれなかったというのに。


人間の順応には感心する。


今日は、あの仕事も休みだから精神的にも楽だ。



気分良くベッドから降りると、軽く身支度をし朝食の準備をする。




一通り掃除などを済ませると、クローゼットから段ボールを引っ張り出すと、小さなテーブルの前に座る。


いくらAVという身体を使った仕事でも、それ一本だけで借金の返済と生活費を出すのは厳しい。だから、家で出来る内職とあまり日数は多くないが、小さな定食屋でアルバイトもして生活している。



本当は、あまり外には出たくないのだが、だからといって金を稼がなくては生きてはいけない。



小さな天然石のブレスレットを作りながら、夕食は何にしようかと考える穏やかな時間が、とても好きだ。



柔らかな空気の中で、携帯がメールの着信を告げた。


仕事の場合は、基本電話なので総司だろうと思いつつ開くと驚きに目を見張る。


送り主は土方で


良かったら、近い内に食事にでも行かないか


との内容だった。



パタリと携帯を閉じ、目を伏せる。


土方から連絡が来た事は、嬉しい。だけど…苦しくもある。


また会って話したい


けど、苦しくなる。


断ってしまった方がいいのだと思う。このまま会わずに姿を消してしまった方がいいと…。もし、知られたらと思うと恐ろしい。知られる前に姿を消してしまう方がいい。


でも


でも…


自分には、この人の誘いを断る事が出来ないのも、よく分かっている。



結局、まだ諦められていないのだ…あの人を。



きっと、総司は呆れるんだろうなと思いつつ返事を返す為に携帯を開いた。




もう少し、あの人の近くにいたい。

もう少しだけ…。



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