淡恋【24】
斎藤にとって絶望の日となった夜以来、自暴自棄に陥っていた。
もう、どうでもいい
それしか考えず、AVの仕事に打ち込んだ。
土方の事を忘れたくて、事務所に頼んで仕事を増やしてもらった。
「ぁん…もっと…」
わざとらしく色の含んだ表情で笑みを浮かべ、初対面の男に跨がりゆるゆると腰を動かしねだる。
下からガツガツと突き上げられ、海老のように背を反らし喘ぐ。
『最近、ICHIちゃん変わったねー。前は清楚で初々しさが売りだったけど、今なら色気を全面に出して積極的に男に迫るようなキャラでもいいかもね』と、監督に言われた言葉を思い出し、くすりと笑う。
いやらしくカメラの前で乱れてみせながらも、心は悲しみに麻痺していた。
■■■■
撮影が終わり、携帯を見ると総司からメールが入っていた。
『お疲れさま。今日は、一君をお迎えに行くついでにご飯を食べるから、終わったらメールちょーだい。』
「…少しはこっちの都合を考えろ。」
と言いながらも、苦笑を浮かべ『終わった』と返事を返す。
ついで、とはいってるが本当は俺に食事をとらせる事が目的だろうなと推測し、肩を竦める。
食欲をなくし、ますます痩せてしまった斎藤をみて総司はあからさまに顔をしかめていたから。
『じゃぁ、今から行くから30分くらいで着くよ。建物の前で待ってて。』
総司からの返事を見て、携帯に向かって小さく『すまない』と呟いた。
身支度を終え、総司の待っている場所へと向かう。
どうやら総司はまだ着いていないようだ。
壁に寄り掛かり、パカリと携帯を開くと
『言い忘れたけど、今日のお迎えは僕じゃないよ☆』
「は……?」
総司じゃなければ、誰だと言うのだ。
「斎藤。」
「っ……!」
カシャンと音を立て、携帯が地面へと叩きつけられた。
Next
- 24 -
戻る