淡恋【22】

こちらを見ずに顔を俯けてばかりいる斎藤に、どうしたものかと困惑しつつ土方は口を開いた。


「…お前が、進んでやるような仕事でないのは分かっている。理由も知った。斎藤、お前は仕事を変える気はないのか。」


「………当然でしょう。AVの仕事で金を稼いでるんですから。それが無くなったら借金返済どころじゃありませんよ。」


顔を上げキッと土方に睨み据えながら、吐き捨てる。


「それにAVの仕事は、そこそこ稼げますから楽なんです。」


わざとらしく笑みを作って見せる。


「土方さん…心配して下さったんでしょうけど、今の俺には金を稼げるのなら何でもいいんです。だから別に…不満とかありませんから。」


ペラペラと思ってもいない嘘を吐き出す己に内心嫌悪を抱きながら、それでも話し続ける。


「金は稼げるし、快感まで得られる…文句なんてありません。」


(気持ちいいなんて、思ったことなど一度たりとないが…)


自嘲すると強張る顔の表情を動かし、にこりと笑みを作る。


「軽蔑して下さって構いませんよ。俺は、こういう女ですから。分かったなら、もう帰って下さい。」


土方の体を押すと、今度は簡単に離れた。やはり軽蔑されたと悟り悲しくなったが、顔には出さないように歯を食いしばる。


スクッと立ち上がると、ごそごそとクローゼットからマフラーを取り出すと土方に押し付ける。


「差し上げますので、しっかり巻いて下さい。返さなくて構いませんから。」


事務的に淡々とした口調で述べ、土方を見ないようにしてコーヒーカップをキッチンに下げる。


もう、これで土方と会う事はないだろう。そう思うと涙が溢れ出そうになるが、ぐっと歯を噛み締め堪える。一人になるまでは、泣いてはならない。


カップを洗っていると、背後に気配を感じ振り返ると、何かに強く体を引っ張られ唇が塞がれた。


「んんっ!?」


呆然と目を見開いた。本当にすぐ近くに土方の顔が…土方にキスをされているのだと理解するまでに、だいぶ時間が掛かった。




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