淡恋【2】
斎藤の私服は、飾り気のない地味なものだ。
それに伊達眼鏡をかけて、簡単だが変装という事にしている。
仕事に対しては諦めているが、だからといって見られているかもしれないという恐怖はいつまでも消えてくれない。
「…くだらんな。」
はぁっと深く溜息をつくと、近くにあるコンビニへと足を向けた。
『いらっしゃいませ〜』
店員の声を聞きながら、真っすぐに弁当コーナーへと向かう。
本来は、きちんと自炊するのだが仕事の後は、どうもその気が起きない。
どうも弁当を食べる気にはなれず、サラダで済まそうと手を伸ばした時、横から伸びてきた手とぶつかった。
「すみません…」
「いや、こちらもすまなかった…って、斎藤?」
どこか聞き覚えのある声で、名を呼ばれ驚きに顔を上げると、大学以来会うことのなかった土方が驚いたような表情で立っていた。
「土方さん……。」
あの頃と変わらぬ思い人の姿に、ひゅっと息を呑んだ。
会いたくて
会いたくなかった。
「久しぶりだな、元気だったか。」
夜の公園に穏やかな声が響く。
コンビニで偶然再会した後、土方と斎藤は近くの公園にやってきた。
「はい…お久しぶりです。」
自分の仕事に対する後ろめたさからか、土方を直視できず目を伏せる。
するとポンポンと頭に温もりが触れ、そのまま撫でられた。
あの時もよく撫でてもらったなと、ぼんやりと思っているとくすりと笑う声が聞こえた。
「変わんねぇな、お前。昔っから、じっと大人しく撫でられてたろ。」
くつくつと楽しげに笑う土方に、ズキリと胸が痛む。
本当は変わってしまったのだ。
あの頃の白かった自分は、もういない。
存在するのは、金を稼ぐだけの自分。
心も身体も汚れた自分だ。
それでも…
土方には、昔の自分でいたかった。
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