淡恋【18】
「…こんな時間に何の用ですか。」
面倒臭そうに出てきた総司に、「話がある」とだけ言うと、何かを悟ったのか無言で入るように促してきた。
暖房の効いた暖かな部屋の中は、冷えた体には暑いくらいだった。
「邪魔をしたか…悪かったな。」
チラリと立ち上がったパソコンを見遣り呟く。
「別にいいですよ。それより、話ってなんですか。」
ワシワシと髪をかきながら「さくっと話て、さっさと帰って下さい。時間がないんで。」と肩を竦めた。
そんな総司に、いつもなら何かしら文句を言うのだが、流石に今はそんな余裕もない。
「…ICHIというのは斎藤か。」
「……………。」
土方の言葉に総司は一瞬動きを止めた後、いつもの様に口元に笑みを作った。
「分かってるなら聞く必要ないでしょう。にしても、土方さんがAVを見るなんて珍しいですね。」
「……偶然な。」
ポツリと呟いた土方の言葉に、総司は薄く笑う。
「まぁ、いつかバレるとは思ってましたけど…。それで、話はそれだけですか。」
「…何故、斎藤があんな仕事をしている。」
どう考えても、自分から進んでやるような性格じゃない。
「僕に聞かないで、直接一くんに聞いたらどうですか。」
「………今の俺がアイツに何もしないとは保証できねぇ。感情のまま傷つけちまいそうなんだよ。」
顔をしかめ、苦々しげに告げた言葉に総司は深々と溜め息をついた。
「ねぇ、土方さん…僕は、貴方に一くんを支えて欲しいと言いましたよね。事実を知った今、土方さんの気持ちはどうなんですか。もし…少しでも一くんに対する気持ちに迷いがあるなら、何も聞かずに一くんの前から姿を消して下さい。」
じっと真剣な表情で、嘘をつく事を許さないという目で見てくる総司に、ふと目を伏せる。
「…わからねぇ。」
絞り出すように出された土方の答えに、総司は無言で苛立ちに顔を歪める。
「…アイツに対して負の感情はない。何故、斎藤が向かないような仕事をしてるのか…ただ、それだけが引っ掛かってる。自らやりたがるようなモノじゃねぇだろ、斎藤の性格じゃ。」
歩いてる間、少しは頭が冷えたらしい。落ち着いて考えると、ただ¨何故、斎藤が¨という疑問だけが残った。
何の理由があるのか、それが知りたかった。
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